【ライブ映像あり】無伴奏アイリッシュ・ライブの舞台裏

ライター:hatao

9月26日、大阪のライブハウスAlways梅田店にて、フルートのhataoとフィドルの小松大さんの無伴奏アイリッシュ・ライブが開催されました。

このコンサートにかけた意気込みについては、以前の投稿をご覧ください。

https://celtnofue.com/blog/archives/8627

個人的な話になりますが、私は10年ほど前から手を故障しており、これまでの長い間アイルランド音楽家としての演奏から主軸を移して、hatao & namiの活動に専念して広義のケルト音楽、北欧音楽やオリジナル曲の演奏に取り組んで来ました。

しかしその間も、愛好家としてアイルランド音楽への興味を失うことはありませんでした。

この度の無伴奏コンサートは、ここ数年間で手の症状が改善したことや、2020年にアイルランド音楽のコンペティションでフルート、ホイッスルの金賞を受賞したことを受けて、アイルランド音楽での活動も再開したいとの意欲が高まり、企画をしました。

私の演奏したいアイルランド音楽は、メロディやリズムのぴったりとそろった高品質なユニゾン。そのユニゾンを最も楽しむためには、お互いをクリアーに聴くことができる無伴奏。そしてパートナーには、フルートと相性が良いとされるフィドル奏者が良いと思いました。

日本に優れたフィドル奏者は数多くいますが、ここでは挙げきれないいくつかの理由から、自分のパートナーは小松さんの他にはいないと考えて、思い切って共演を申し込みました。中年になってから新しい共演者を見つけるというのは、けっこう勇気のいることです。私の思いを受け止めた上で共演してくださった小松大さんには感謝しています。

実は小松さんときちんと共演するのは今回が初めてでした。それに、普段はお会いする機会もほぼなく、きちんとお話したことすらありませんでした。もちろん素晴らしい奏者であることは知っていましたが、レパートリーやリズムやタイミングなど、実際に音を合わせてみて、語るより多くのことが理解できました。

選曲はお互いが半々で提案しました。名古屋と兵庫という距離なので、2度だけリハーサルをし、あとはメッセージや音声を送りあって詳細を詰めました。

アイルランド音楽は、共通のレパートリーがあればすぐにセッションして形にすることができます。しかし私が目指したのはインスタントなアイルランド音楽ではなく、お互いのメロディ、リズムの細かいところまでピタっと揃ったクオリティの高いユニゾン。基本のメロディを揃える点については配慮を重ねました。また、無伴奏で味付けがないため、どの曲も同じ印象にならないように、曲想やテンポにも気を配りました。

伴奏があれば多少メロディが乱れてもご愛嬌なのですが、無伴奏ではお互いの息が乱れたりミスをするとそこから演奏が崩れてしまいます。常時高い集中力でお互いを聴きあうのは、身体精神的な負担も大きく、まるでスポーツの試合のようです。指や息を動かしながら、同時に脳内では高速な計算をして音を瞬時にモニターし、身体をコントロールをしていたはずです。

演奏中にフィドルとフルートが完全にピタッと揃う瞬間がいくつもあり、リズムの中に身を任せて呼吸と指が自動的に動いていました。その時、思考はありませんでした。スポーツ選手が体験すると言われる「フロー状態」に入ったのでしょう。一般的にコンサートではミスへの恐れや環境や観客など色々な雑念が頭をよぎりますが、今回のコンサートはそういったことから解放されて心から「演奏が楽しい」と感じました。

アイルランド音楽を聞き慣れない方には、アイルランド音楽は単調で変化に乏しいと思われがちなため、演奏者側もお客様を退屈させまいとアレンジに凝るものです。しかし高いクオリティのユニゾンであれば、伴奏がなかろうと、いや、伴奏がないだけにいっそう、スリリングで集中力の高い音楽になると信じています。お客様の反応からは、それが私の思い込みでないことが実感できました。

今回をきっかけにアイルランド音楽家としての活動にも再び力を入れたいと思いますし、小松さんとの共演を今後も重ねて、さらに演奏の高みを目指したい所存です。

ライブには緊急事態宣言下にも関わらず多くの方が参加くださり、また配信も常時40名くらいの方が観てくださっていたそうです。多くのカンパもいただき、皆様の応援にとても励まされます。

ライブの様子は、こちらに残っています。2人のために8台のカメラを切り替えながら撮影し配信用に音を調整してくださったため、見応えのある映像になっています。カンパも引き続き受け付けておりますので、ご覧になった方はぜひカンパもご協力ください。コロナ禍で活動が制限されているミュージシャンやライブハウスの力になります。