ライター:hatao
こんにちは、ケルトの笛のhataoです。アイリッシュを演奏している私、実はアイリッシュを始めた大学生の頃、フォルクローレも熱心に演奏していました。フォルクローレとは南米アンデス山脈地域の音楽で、代表曲として「コンドルは飛んでゆく」が知られています。アイリッシュと同じように、笛や弦楽器やパーカッションといったアコースティックな楽器で演奏されます。
大学時代はその二つの音楽を同時並行で楽しみ、ライブ活動も積極的にしていたのですが、大学3年生になった頃から徐々にアイリッシュに傾倒していき、ついにフォルクローレの演奏は辞めてしまいました。フォルクローレで使われる笛は、縦笛の「ケーナ」と、パンパイプの「サンポーニャ」。どちらもあんなに熱心に演奏していたのに、どうやって手放したのかも覚えていません。きっと人にあげたのでしょう。大学を卒業してからはフォルクローレから完全に離れ、関心も薄れて聴く機会もほとんどなくなってしまいました。
しかし昨年からまたケーナが吹きたいなと思えるようになり、年末から本格的に練習を開始しました。久しぶりに国内のシーンを覗いてみると、学生時代にはいなかったプロ奏者が活躍していたり、教本やCD音源も簡単に手に入るようになったりと浦島太郎のような気分で、時代の変化を感じました。
今回は、そんな二つの音楽に取り組んで知った、様々な共通点や違いについて書いてみます。
アイリッシュとは? フォルクローレとは?
ここでいうアイリッシュとは、アイルランド島という限定された地域で伝承されている伝統音楽です。政治的には、アイルランド共和国と、イギリスの一部である北アイルランドを含みます。例えば海を渡ったスコットランドではスコティッシュ、イングランドではイングリッシュというように、地理で音楽ジャンルが切り分けられています。
これに対して、フォルクローレとは一般的に民俗伝承を指すのですが、音楽ジャンルとしてのフォルクローレは南米アンデス地域の先住民をルーツとした様々な音楽ジャンルを包括した概念です。その中の一例として、ボリビア音楽では儀式や祭りなど生活に密着したアウトクトナ音楽もあれば、白人が持ち込んだ音楽がルーツのクリオージャ音楽もあります。ペルーでは先住民の山岳地域と、黒人音楽の影響のある海岸地域があります。さらに国が異なれば楽器や音楽のあり方も異なりますが、それらをざっくりフォルクローレと呼んでいます。しかし日本では一般的にケーナやサンポーニャやチャランゴなどのアンデス地域の民族楽器を用いた小編成のバンド「コンフント」で演奏する形が多いようです。
アイリッシュとフォルクローレ、地域の違い
アイリッシュはアイルランドの伝統音楽であるのに対して、フォルクローレは様々な国(エクアドル、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、チリ、パラグアイ…)の広範囲に渡る先住民の音楽を指します。そのため、地域的な対応を考えるならケルト(スコットランド、アイルランド、ウェールズ、コーンウォール、ブルターニュ、ガリシアetc)とフォルクローレを対応させたほうが理解しやすいかもしれません。
そのような広範囲なケルト文化圏の中でも人気があるのはアイルランドとスコットランド、広範囲なフォルクローレの中でも人気があるのはペルーとボリビア(とアルゼンチン?)というのも、対比としては似ている感じがします。
アイリッシュとフォルクローレ、音楽のありかたの違い
アイリッシュは本質的にアマチュアの音楽で、トレーニングを受けていない一般の愛好家が見よう見まねで楽器を演奏して楽しみます。日本の音楽文化で例えると村祭りのお囃子に近いかもしれません。もちろん、現代では音楽で生計を立てるプロが多く存在しますが、それは音楽の商業化と結びついた比較的新しい傾向です。
フォルクローレ(本来の民俗音楽ではなく、日本で人気のあるような小編成のバンド形式)はむしろ商業的に発展した歴史があります。先住民のルーツを持った音楽文化を、民族楽器の音色でヨーロッパ人にプレゼンテーションするために伝統音楽をバンド形式にアレンジしたため、新しい音楽スタイルや楽曲が次々に生まれました。日本の音楽文化で例えると演歌に近いかもしれません。
アイリッシュとフォルクローレ、演奏の違い
アイリッシュはダンスの伴奏音楽としての性格が強く、ダンサーがいない状況でもダンス音楽を演奏してリズムを楽しみます。メロディ楽器は全員が同じ旋律を演奏し(ユニゾン)、 基本的にハーモニーはありません。そのため、何人でも一緒に演奏することが可能です。
フォルクローレには様々な種類の音楽がありますが、最も一般的なのはコンフント(バンド)形式で、ギター、チャランゴ(マンドリンのような小型弦楽器)、ボンボ(太鼓)、ケーナ、サンポーニャなどの小編成で演奏します。メロディ奏者は基本的には1人ないし2人で、2人に場合はユニゾンではなくパートを分け合ったり、ハーモニーで異なるパートを演奏します。そのため、全員で知っている曲を合奏するセッションのような文化はありません。
アイリッシュとフォルクローレ、笛の違い
アイリッシュでは縦笛ティン・ホイッスルと、横笛アイリッシュ・フルートが演奏されます(バグパイプはエアーリード楽器としての笛ではないので除外)。どちらもメロディを演奏するために使われ、それぞれ1オクターブの音域の差があるので、別の楽器として認識されており、運指が共通していることから両方を演奏する奏者も数多くいます。
フォルクローレにはケーナとサンポーニャが使われており、どちらもメロディを演奏するために使われますが、発音の方式が異なるために同じメロディを演奏しても違った表現となります。そのため両方を演奏する奏者も数多くいます。
アイリッシュとフォルクローレ、音楽性の違い
アイリッシュは個人の芸能というよりはコミュニティの芸能です。もちろん名人と呼ばれる人はいるものの、そうでない人も一緒に音楽を演奏して楽しむことができます。その目的はダンスのリズムを演奏することなので、音楽性は、ユニゾンで調和するためのリズムの良さが重視されます。
フォルクローレはロック・バンドのようなもので、グループのメンバーがお互いに支え合って音楽を作ります。またケーナ奏者やサンポーニャ奏者は花形でバンドの歌手のような立場なので、歌い方や歌唱力が問われます。音楽性は、ソリストとして演奏するための歌唱力が重視されます。
アイリッシュとフォルクローレ、練習方法の違い
アイリッシュではいかに踊れる演奏をするかが重視されるため、レッスンではアーティキュレーション、アクセント、装飾音などを駆使して良いリズムを目指して練習します。
フォルクローレではいかに歌えるかが重視されるため、レッスンではハリのある美しい音色からかすれた音色までの音色の変化、強弱のコントロール、ヴィブラート、装飾音などを駆使して素晴らしいソロ歌手のように表情をつけて歌うことを目指して練習します。
同じ笛音楽だけど結構違う
アイリッシュとフォルクローレ、どちらも笛が主役のイメージがありますが、こうして比較すると結構違いますね。私はフォルクローレの練習を始めたばかりの入門者なのでまだまだ知らないこと、先入観も混ざっているかもしれません。もし、「違うよ!」ということがあればコメントなどで優しくお知らせいただければ勉強になり助かります。