ライター:field 洲崎一彦
前回は、お話がまさに混迷な泥沼に突入してしまいました。ブズーキの話はもとよりアイルランド音楽の話からも大幅に脱線してしまうことになるので、大いに迷ったのですが、自分の記憶を整理するためにも、もう少し続けてみることにします。
今回は、ソーラスのコンサートでハッと思った「16ビート」についてです。これが、私の音楽史の中では非常にやっかいなシロモノでして、こいつに触れないことには話が前に進められない。そういうわけで、今回は番外編とします。お許しください。
時は、私の大学軽音時代。仲間たちとの、とある会話から始めます。
-最近、「16ビート」ってよく聞くけど、あれ、なんやねん?
-あれなあ。よう雑誌にも書いてあるけど、ワシも判らん。
-どうも、アメリカのもんやんな?
-そんな感じやな。
-ワシらブリティッシュロックばっかりやってるから知らんのかな。
-せやな。ソウルやってる先輩にきいてみよか。
-ソウルセンパイ!「16ビート」って何か知ってますか?
-お前ら、なんでそんな恐ろしいことをオレに聞くねん?
-恐ろしいものなんですか?
-それはやなあ、オレみたいなギターに聞かんとドラムのあいつに聞け。
-ドラムセンパイ! 「16ビート」って何か知ってますか?
-お前ら、その言葉どこで知ったんや?
-雑誌とかにいっぱい書いてあります。
-そうか。何て書いてあった?
-それが、よう判らんのです。
-せやろ?ワシも判らんがな。
私たち、当時の1970年代終盤から1980年代初頭の軽音学生は日々こんな会話をしておりました。つまり、この「16ビート」、誰も判らない。聞いたことあるけどその意味は知らない。ソウルをやってるセンパイも知らないわけです。ここからは、センパイも含めて頭を突き合わせ、ああでもないこうでもないという想像たくましい会話が毎日くりひろげられます。
そんな時、誰々の友達の誰々ちゃんの彼氏が元宝塚歌劇団の楽団でドラムを叩いてたプロの人らしいで、というのを聞きつけてくる奴がいた。よし!その人を紹介してもらって教えてもらおう!と。その彼氏さんは、今は楽団を辞めて別の仕事をしているというから、まあ現役のドラマーではないわけですが、これはもう藁をもつかむ気持ちで、その誰々の友達の誰々ちゃんの彼氏と何とか会える算段を誰かがつけてくる。そして、私らは、その時は3人ぐらいやったと思うのですが、その彼氏の家(?:ここはっきり覚えてない)にお邪魔するわけです。
彼氏さんの家にはドラムセットが鎮座していた。今では、普通のお家でドラムを叩くなんて考えられないので、この記憶を疑ってしまうのですが、スタジオとかで会ったわけではないので、まあ、これも時代やったのでしょう。
そして、
-僕ら、軽音の学生で、初心者なんですけど、いろいろ教えて欲しいことがあるんです。
と切り出す。
-「16ビート」って何なんですか?
-ああ、それか。それ、最近よく耳にするなあ。はっきり言ってオレもよう知らんのや。
-プロのドラマーが把握しておかなあかんリズムには、パターンというのががあってね、
ツーカカー・ツツーカカー -これが、サンバ
カカドドンドドン・カカドドンドドン -これが、ルンバ
ズンズンチャーッチャ・ズンズンチャーッチャ -これが、ロック
チンチーッキ・チンチーッキ -これが、ジャズ
チンチーチッキ・チンチーチッキ -これが、ジャズワルツ
-他にもあるけど、こういうのを覚えてないとドラマーの仕事はできひんのやわ。でも、オレらの頃には、そんなパターンの中に「16ビート」なんちゅうのは無かったからなあ。新しくできたパターンなんかもしれんなあとは薄々思っててんわ。
-例えば、その「16ビート」の曲ってどういうのがあるのん?
パラパラピレポラ~(持参したカセットテープで適当にソウルの曲をかける)
-ああ、こんな感じか。ほな、このパターンかな?ドカツカ・ドカツカ ・・・・
いや、こういうのかな?ドツカツツ・ドツカツツ ・・・・
こんなやりとりが果てしなく続きました。まあ、私らとしては、プロの楽団のドラマーのお仕事の一旦を垣間見たような気持ちになって、それはそれで非常に面白く彼氏の話を聞いていたわけですが、肝心の「16ビート」に関しては、こんな感じで曖昧に終わってしまった。
そんな日々が続くうちに、ラジオでなんちゃらというミュージシャンがこんなん言うてたで!と、また誰かが新しい情報を持ってくる。それによると、16分音符が入ってるのが「16ビート」らしい!
こりゃまた何てことを!
この頃の軽音に楽譜なんか読める奴も書ける奴もおらん。せめて、ドラムセンパイなら判るかも。。。ここで、うっかり、ロックのドラムをやってるセンパイに聞いてしまった。。
-16分音符か?16分音符言うたら、「スモーキング・ウオーター」のイントロのハイハットやで。ディープパープルのライブイン・ジャパンのやつや!
-え?あれが「16ビート」なんですか?
-せや!あれが「16ビート」や!
ここで、私らは狂気乱舞。「スモーキング・ウオーター」なら慣れ親しんだ曲。あれがそうやでと言われて、どっか、ほっと安心したりするわけです。でも、これ、まったくのデタラメでした。ロックセンパイは何と罪な人であったか笑。
次にまたよけいな情報を仕入れてくる奴が出て来る。その頃流行初めていたディスコ。映画サタディーナイトフィーバーで一気に火がついた、あの、ディスコ・ダンスが「16ビート」らしいで云々。なにい?それなら、音楽はビージーズやん。あの、「小さな恋のメロディ」のビージーズやで!よし、そのサタディーナイトフィーバーで使われたビージーズの「ステインアライブ」を聴いてみるべや!
-これ、ドラムが「スモーキング・ウオーター」のとは違うで。。。。
-せやな。ズンズンチャチャ、やな。普通のロックと一緒のドラムやん。
また、ソウルでめっちゃ流行ってるアースウィンドアンドファイヤーが「16ビート」の権化みたいにミュージックライフ(雑誌)に書いてあったぞ!という声にも私らは素直に従って、レンタルレコード屋に走るわけです。大ヒットしたらしい、「セプテンバー」という曲を正座して聴く。
-ドラム、チッタ・チッタ、だけやで、これも「スモーキング・ウオーター」とはぜんぜん違う。。。
そうです。宝塚彼氏のせいで、ドラムのパターンがリズムの名前やというイメージがついてしまった故の迷走だったのです。あれは、どうも違うみたいやで、、、で、私らは完全に振り出しに戻る。
その頃に、私には、はっと思い当たる、ある記憶がよみがえった。それは、「16ビート」ならぬ「8ビート」という言葉。そうか。あれやあれや。高校時代に読んだ音楽雑誌に出ていたやつや。それは、確か、ギタリストの成毛シゲル氏が書いていたコラムだった。が、その雑誌はもう手元にはないし何の雑誌だったかも覚えていない。なので、思い出すしかない。
つづく。。。
さて、どうする?さらに、記憶は高校時代にまでさかのぼらなくてはならなくなってきました。(す)