
ライター:hatao
GloamingとMary Bergin、どちらも外すことのできない名盤ですね。
Gloamingは、ゴリゴリのダンス曲を聞かせるバンド・スタイルのアイルランド音楽が全盛の中では異色で、最初に聴いたのは10年くらい前でしょうか、当時は私の理解が追いつかず馴染めなかったのですが、振り返ればMartin HayesはこれまでTriúr、Martin Hayes Quartet、The Common Ground Ensemble…と、常に実験的な音楽を作り続けていたのでした。時代に先駆けるマイルス・デイヴィスのようなアイルランド音楽の天才です。
メンバーのCaoimhín Ó Raghallaighも素晴らしいですよね!伝統音楽のド真ん中にありながら実験的な音楽を作る点では、Martin Hayesと同じ方向を向いています。ノルウェーの伝統フィドル「ハーディングフェーレ」の音色が、このアンサンブルにとても似合っています。
そして、ピアニストのThomas Bartlettについてですが、私、楽器店の事務作業中はヒーリング・ピアノのSpotifyで流していることが多いのです。ただ、そういった音楽は雰囲気が良いだけで音楽的に面白いと思えるものが少ないのが往々です(だからBGMなのですが)。その中で、これは!と思ってプレイリストに保存していたのが Thomas Bartlettのソロでした。
Thomas BartlettとMartinやCaoimhínが一緒に仕事をしているのを知ったのは、ずっと後です。Gloamingでも、スタイルとしてのジャズを全面に出さず、音楽の本質を捉える演奏はさすがです。
「アイリッシュ・ミュージックがアイリッシュ・ミュージックのままで、 どこまで外側に向けて拡張できるか」はまさに至言ですね。
Mary Berginの2枚の遺産については、どんなに言葉を尽くしても足りないほどです。1980年前後はMatt Molloyの通称「ブラック・アルバム」(1976)やKevin Burkeの「If the cap fits」(1978)、Noel Hillの「The Irish Concertina」 (1988)のようなアイルランド音楽の金字塔と呼ぶに相応しいアルバムがそれぞれの楽器で発表されており、その道を志す者が常に参照すべきマイルストーンとなっています。
もちろん、その後もアイルランド音楽はたゆまず進歩し続け、断続的に良いアルバムが発表されているのですが、これを超えることは難しいという山、あるいは難攻不落の城が築かれた時代だと考えています。これは、1920年代のアメリカに比肩するアイルランド音楽アルバム史の黄金期なのではないでしょうか。
そして、その次は2000年頃のバンドブーム、2015年頃の伝統回帰路線だと勝手に流れを定義しています。これは、過去のアーカイブが充実したり一次資料の研究が進んだことによる影響でしょう。
Lasairfhíona Ní Chonaolaについては初めて知りました。声を作らない、飾り気のない歌唱法であるものの、ピッチのコントロールや「こぶし」はさすがです。普段歌を聴かない私ですが、良い歌手に出会うことができました。
最後に、私のホイッスル演奏についても一言ありがとうございます。実は、この秋に15年ぶりとなる自著のティン・ホイッスル教本を発表する段取りで原稿を書いています。シリーズ3巻の壮大な計画です。
来年はティン・ホイッスルを演奏し始めて30年の節目ですし、これを記念して、ティン・ホイッスルのアルバムを作っても良いかもしれません。
