ガリシアの伝統衣装:茶谷春奈

ライター:茶谷春奈

¡Bos días a todos! みなさんこんにちは!

ケルトの故郷、スペイン・ガリシア地方の伝統音楽を演奏している、茶谷春奈です。

前回は、ガリシアに残るケルト人の遺跡についてお話させていただきました。

今回は、ガリシアの伝統衣装についてお話します。

昨年、スペイン・ガリシア地方のカマリ―ニャスという村に滞在し、現地の伝統音楽を学んでいたときに、わたしはその村の2つの音楽グループと一緒に演奏活動をさせてもらっていたのですが、その際、伝統衣装を着させてもらう機会が何度もありました。

他のメンバーは皆、自分の衣装を持っているのですが、わたしは持っていなかったので、余っている衣装をいつも貸してもらい、着付けも少し複雑なので、友人が手伝ってくれていました。

どのようなものだったかというと、女性は、足首まで隠れるくらいの長いひらひらのフレアスカートの上に、腰から下だけのレースのエプロンをつけ、上半身は白いレースブラウスの上から、独特の模様が描かれた大きな風呂敷のような布を三角に折って羽織ります。スカートの中には、スカートのシルエットを美しく見せるためのインナースカートをもう一枚履きます。

髪は、ガリシアの女性のシンボルとして皆三つ編みを結います。長髪の女性なら後ろで一本に結い、短髪の人もだいたいは後ろで髪を一つにまとめ、つけ毛の長い三つ編みをつけます。そして、その上から大きなバンダナを巻き、端をぐるぐるとねじったら、ねじり鉢巻きのように頭に巻きつけぎゅっと結びます。

足元は、長いレースの白タイツに、黒い革靴を履きます。

アクセサリーは、ケルトのシンボルが象られた金色のペンダントとピアスを身に付けるというのが決まりです。

男性の衣装は、上半身は白いブラウスに黒いベスト、下半身は白い長ズボンの上に黒い短パンを重ね履き、黒い革靴、お腹には長い帯をぐるぐる巻きつけ、ぎゅっと締めます。そして、頭には、言葉で説明するのが難しいのですが、くにゃくにゃとした曲線のカラフルな帽子(他では見たことがありません)を被ります。

衣装の色はさまざまですが、ガリシアとして一番定番の色は赤と黒です。女性なら赤のスカートに黒いエプロン、男性なら黒いベストに赤い腹巻き、というように色を組み合わせます。その他にも、緑や黄色、茶色などの色もよく使われています。

初めて衣装を着たときは、ブラウスを着て、タイツを履いて、インナースカートを履いて、スカートを履いて、エプロンを着けて、羽織を羽織って、頭にも大きなバンダナを巻きつけ、アクセサリーを着け、メイクをし…と、次から次へとやることの多さに驚きましたが、デザインが可愛くて、まるで自分が本物のガリシア人になったようでとてもワクワクしました。それに、日本で着物を着るときとなんだか似ていると感じました。とくに羽織を羽織るときは、ガリシアの衣装も、日本の着物と同じように女性は左側を前にして重ねるのです。

実際に着てみると、衣装は重くて、歩くだけでも少し不自由に感じるのですが、とくに階段の上り下りやトイレに行くときには、スカートの裾を踏んだり、引きずったり、着崩れをしたりしないように気を付けなければいけないので、大変でした。その上、演奏のときには、それぞれの楽器を演奏しながら(人によっては ”ボンボ” という大太鼓を担いで)何時間もかけてお祭り会場を練り歩くこともあったので、体力勝負です。

しかし一度演奏が始まると、20名ほどのメンバーと息を合わせて曲を演奏することが本当に楽しくて、わたしはいつも大変なことも忘れ、演奏に熱中していました。

わたしの住んでいた地域では、衣装はすべて、仕立て屋さんに頼んで作ってもらうのが一般的でした。そもそも、村には仕立て屋のおばあさんが何人もいて、何か大切なイベントのための服や、服を直したいときなどは、皆、仕立て屋さんに頼むという習慣があります。

グループでお揃いの衣装を作るときにも、色を決め、自分たちで布を用意したら(布屋さんも各村にあります)、仕立て屋さんに頼み、一人一人オーダーメイドで作ってもらいます。代金は一着フルセットでだいたい3万円から5万円ほどだと聞きました。

さらに、グループで使う衣装は1種類だけではなく、演奏するお祭りによって、「今回は赤にしよう」、また、「今回は緑で行こう」などと変えるので、一人につき何種類もの衣装を持っています。わたしがホームステイをさせてもらっていたお家でも、母と娘で一緒に伝統音楽をやっていたので、普通のクローゼットの他に、伝統衣装用のクローゼットも一つありました。

ちなみに、衣装を作るにあたって、レースの飾りがよく使われるのですが、わたしの住んでいたカマリ―ニャスという村はレース編みの伝統工芸発祥の地であり、今も技術が受け継がれているので、そのレース自体も職人さんによる手編みの場合が多かったです。

レース編みのやり方も、実際に現地で学ばせてもらいましたので、詳しくはまたの機会にお話させていただきますが、レース編みはとても細かい作業なので、何日もかけてコツコツ手編みされたレースで作られた衣装は、人々の想いがたくさん詰まっており、金銭的な価値を超えた、とても貴重で価値のあるものだと思います。

そんなガリシアの伝統衣装ですが、日本に帰国して、こちらでもガリシア音楽を演奏させていただく機会が増えたときに、ガリシアの友人たちから「衣装を手作りしたらどう!?」と言われ、現地でお世話になっていた仕立て屋のおばあちゃんがテレビ電話で作り方を教えてくれたことがありました。わたしは洋裁はほぼ未経験で、ましてや衣装を作るなど初めての挑戦でしたが、それでもガリシアの仲間たちが丁寧に教えてくれたお陰で、赤と黒のガリシアカラーの衣装が完成し、今では念願の「自分の衣装」を着て演奏をさせてもらえるようになりました。