
ライター:松井ゆみ子
アイルランドのトラッドミュージック・セッションは「オープンで誰でも参加できる」と思われていて、実際そうなのですけれど、エチケットは守らないと嫌われます!
あえて「マナー」とよばず、「エチケット」と言うのを聞いたときに、この国らしいニュアンスを感じました。マナーよりも控えめだけれど的確。
わたしがこの点に言及するのは、おこがましい気がしたのですけれど、セッションの流儀を知るのは、とても大事なことなので、あえて。
アイルランド人は、あけすけな印象がありますけれど、実は日本人に似たところがあって、よほどのことがない限り面と向かって批判したり文句言ったりしないのです。
酔った勢いなどで冗談まじりに文句を含めることは多々ありますけれど、真顔で「キミはこうした方がいい」とか、まず言いません。なので、ひそかに嫌われる、という事態を招かないための気配りを、していないようでちゃんとしているのがアイルランド人。
わたしがセッションに加わるというか末席に混ぜてもらうようになって、まだ数年にも満たないですが、セッション・エチケットに関するエピソードを見聞きする機会はぐんと増えました。へー、そんなことが起きるんだ!と、びっくりな話がたっくさん!
特に夏は、観光客、旅行客が入り乱れて、ふだんのセッションに見知らぬ参加者が混ざる機会が増えるので、摩擦度も増します。セッションリーダー(ホスト)がいることも理解しておらず、どっかり中心に陣取ってチューンを始めるツワモノは少なくありません。ちょこっと演奏できる輩がやらかす失敗です。
「一度、本場アイルランドでセッションに参加してみたかったの〜」という観光客もやばい。たいていティン・ホイッスルかバウロンで挑んできます。控えめなら可愛げもあるのですけど。黙って受け入れるアイリッシュ・ミュージシャンたち、懐深いなーと感心すること多々。
わたしが訪れた旅先で、老舗音楽パブのセッションに嬉々として参加していたアジア人のバウロン。テクニックはそれなりにあるのに肝心のリズムがだめだめで、セッションメンバーたちが少しずつ帰路についていきました。すごくいいセッションだったのに、たったひとりのために撃沈。楽器が武器になってしまう恐ろしいシーンでした。
大事なポイントをいくつか。
混ざりたいセッションは、弾く前に聴くこと! どんなチューンをどんなテンポで演奏しているか、傾向と対策を身に付けてから挑みましょう。「なにかチューンを」と振られたときに、場違いなチューンを選ぶと、かっこ悪いだけでなく、メンバーたちの演奏意欲もそぎます。お!というチューンを選べば、一気に株があがります。そのあたりの駆け引きがセッションの醍醐味!
聴くだけの人にもエチケットは必要です。まずミュージシャンの位置を確認して、スペースを保ってあげてください。後から来たミュージシャンが座れないなんて事態もあるので!
セッションのみならず、コンサートでもトラッドミュージックで手拍子は厳禁です。手拍子で参加したくなる気持ちもわかるのですけど、ちゃんとリズム取れている人ってまず皆無。残念ながら、演奏者の邪魔にしかならないのです。最近はだいぶ理解が広まってきているのか、手拍子が始まっちゃっても、誰かが止めに入るらしく潮が引くようにフェイドアウトすることが増えています。
パブセッションで手拍子しちゃう人の多くは、酔っ払っているか、トラッドミュージックを理解していないか、どちらかです。
スプーンズなどの鳴り物は、セッションメンバーと顔馴染みで許してもらっている場合のみ。それでもチューンひとつかふたつが限度。メンバーがバウロン奏者でスプーンズに持ち替えるのは話が別ですけれど、待ってましたとばかりにセッションを聴いてたひとがスプーンズを鳴らすのは厳禁。あるミュージシャンの名言で「スプーンは1本だけにしてね!」
エチケット知らずのバンジョー奏者を知っています。地元のセッション荒らし。上手くないのに音の大きな楽器を購入したばかり。セッションの流れもおかまいなしに、いきなりチューンを始めるので、彼が弾き出さないよう、ホストが次々にチューンを選んで演奏しまくったことも。笑い話になっていますけれど、現場ではみんな引きつっておりました。チューンの合間のお喋りを楽しむ間もなし、苦笑。
こうやって事例をあげていくと、自分も意地悪な人間みたいな気がしてくるので、アイルランド人が、セッションエチケットを知らない or 守らない人たちのことをとやかく言いたくない気持ちが理解できます。
でもね−!気をつけましょう! 大事なのはコミュニケーション。セッションに参加したかったら、まず挨拶。演奏する前にそのセッションをよく聴いて理解すること。音楽は会話です。お喋りの輪に入りたいとき、いきなり自分勝手な話題で乱入したりしないでしょう? セッションもおんなじです!
わたしが唯一できることは、混ぜてくれているセッション仲間たちへの感謝。幸いフィドルはバンジョーやアコーディオンなどに比べて音が小さめですから、邪魔する可能性が若干少なくて助かってはいます。けれど、チューニングには充分気をつけています。特に高音はそろわないと気持ち悪いし。ドニゴールでは低音でキメる部分も多いのですが。
セッション・エチケットと聞くとめんどくさそうですけど、ひととして気を配るべきとこがちゃんとできていれば、ぜんぜん面倒なことはないのです。
Let’s try !!
