こんにちは。ケルトの笛屋さんのマリオです!
今回は主にアイリッシュで使用されるボタンアコーディオンについて興味深い発見があったので記事を書かせていただきました。
まずはこちらのアコーディオンをご覧ください
まずは当店で扱っているフランスのアコーディオンメーカー「Saltarelle Accordions」の B/C アコーディオンをご覧いただきましょう。
Saltarelle The Irish Bouëbe B/C アコーディオン
じゃーん!おフランス製とだけあって、めっちゃお洒落です。
右手 2列、23ボタン、(押し引き異音のBスケールとCスケールの2音階のボタン)、左手 2列、8ボタン、 (押し引き異音の和音ボタン4つベースボタン4つ)。
そして和音用ボタンを3音鳴らしと2音鳴らしに切り替える事ができるレバーがついています。
「3音鳴らし」と「2音鳴らし」
実はこのレバー、今回のテーマに大きく関わる重要な役割があります。
「3音鳴らし」と「2音鳴らし」
一体何の事だ?!
音楽知識がある方は薄っすら気付いているかもしれません。
これは同時に鳴る音の数です。
日本語でこれを「和音」と呼びます。
3つの音が同時になると「3和音」、4つだと「4和音」と言います。
ピアノだと異なる鍵盤を同時に叩いたときの音です。
ギターだと、左手でフォームを作り、右手のピックでジャカジャカと弾いた時にでる音です。
このボタンアコーディオンでは和音ボタンを1つ押さえて、蛇腹を押し引き(伸ばしたり縮めたり)するだけで和音を出せます。
「和音」は「コード」とも呼びます。
コードは基本的に2和音よりも3和音、3和音よりも4和音の方が音に厚みがあり表現が豊かになっていきます。
ジャズなどで使われる「おしゃれだな」と感じるコードは4和音以上のものも多いです。
更にそこに「転調」や「モーダルインターチェンジ」という技法で、使える「コードの幅」を増やすことで、より複雑で知的な印象の曲になるのです。
逆に2和音というと、とてもシンプルです。
今回紹介する2和音は「パワーコード」と呼ばれる、ロック(特にパンクやヘビメタ)を演奏する際に、使うシンプルなものです。
メロディとの兼ね合いで、おしゃれに感じさせる2和音もありますが今回はその2和音は使わない前提ですので省略させて頂きます。
パワーコードはその名の通り、コードの音をはっきりと分かりやすく濁りない状態で聞かせたい・・・という時に使いたくなるパワーのある和音です。
僕はこのパワーコードとアイリッシュミュージックはとても相性がよいと考えています。
特にリールやジグなどのダンスチューンはメロディが目まぐるしく動く分、伴奏はシンプルなコードでも様になるのです。
あえて複雑なコードを使うお洒落なリールなどもありますが、「聴きやすさ」や「素朴さ」を演出したいのであれば3和音ぐらいのシンプルなコードが合います。
2和音のパワーコードは「力強くカッコいい」サウンドを演出したい時に有効でしょう。
DADGAD「ダドガド」
少し話を脱線しますが、アイリッシュの伴奏でよく出てくるアコースティックギター。
この楽器の一般的に使われる最もポピュラーなチューニングは低音弦からEADGBE(ミラレソシミ)という並びの「レギュラーチューニング」なのですが、アイリッシュではDADGAD(レラレソラレ)というチューニングがよく使われます。
通称「ダドガド」と呼ばれています。
※DADで「ダド」GADで「ガド」と発音するからです。
このチューニングの低音から始まるDとA(レとラ)の音はパワーコードの構成なのです。
つまり簡単なフォームでパワーコードを出しやすいチューニングともいえます。
人によっては高音弦は鳴らさず、左手を低音弦のパワーコードのフォームのままスライドさせる人もいます。
同じく伴奏で使われるアイリッシュ・ブズーキにもこの動きは見られます。
お店で取り扱っているブズーキのチューニングはGDADです。
低音弦のGとD(ソとレ)、やはりこれもパワーコードの構成なのです。
これは偶然なのでしょうか?
僕は、このようなチューニングが浸透したのは、アイリッシュはパワーコードとの相性が良いからだと解釈しています。
以上の点から、アイリッシュ音楽と2和音(パワーコード)の相性が良いという「主張」が分かって頂けたと思います。
さてここでアコーディオンの話に戻ります。
冒頭に「3音鳴らしと2音鳴らしを替えるレバー」があると紹介しました。
ボタンアコーディオンの「2音鳴らし」とはパワーコードの事です。
ボタンアコーディオンはパワーコードボタンがオススメ!
結論から言います。
ボタンアコーディオンはパワーコードボタンに設定する事をオススメします。
それはサウンド面だけではく、「ボタンアコーディオンの楽器自体の特性」にも関係してきます。
と…その前に。
2和音(パワーコード)と3和音の特長をもう少し掘り下げて説明しなくてはいけません。
ここから更に音楽理論的な話になります。
「そんなん分かってるわ!」という方は下にスクロールして、本題の「アコーディオンを改造しよう!」にいきましょう。
まず3和音の説明をします。
3和音には大きく「メジャーコード」と「マイナーコード」というものがあります。
メジャーコードは和音そのものが明るい印象で、マイナーコードは和音そのものが暗く切ない印象です。
では何をもって「明るい」と「暗い」キャラクターを決定づけるのかというと、3和音の「真ん中の音」がポイントとなります。
例えば「ド・ミ・ソ」という3和音があったとします。
この構成の和音を「Cメジャーコード」と言います。
この真ん中の「ミ」の音を半音下の「ミb」の音にすると暗く切ない「Cマイナーコード」になるのです。
Cとは主音のドの事を指します。
では次に「ラ・ド・ミ」という3和音があったとします。
この構成の和音を「Aマイナーコード」と言います。
この真ん中の「ド」の音を半音上げて「ド#」にすると明るい「Aメジャーコード」になるのです。
Aとは主音のラの事を指します。
このように3和音の真ん中の音で大きくキャラクターが変わるのです。
難しく言うと主音からの「音の距離」で決まります。
では次に「パワーコード」を改めて説明します。
実はパワーコードはさっきの「3和音」の「真ん中の音」を省いた2音なのです。
キャラクターを左右する真ん中の音がないので、明るくもなく暗くもない、シンプルなコードです。
これは言い換えるとメロディー次第でメジャーっぽくもマイナーっぽくも聞かせる事ができるので、ある意味、汎用性のあるコードなのです。
では何故ボタンアコーディオンにパワーコード設定をオススメするかと言うと、それは「ボタンアコーデイオンの持つ制限」に関係します。
冒頭にも説明しましたが左手の8つのボタンのうちコードボタンは4つだけなのです。
厳密には押し引き異音なので、1つのコードボタンに2種類のコードが割り振られています。
例えば赤丸で囲った右上のコードボタンを押しながら、アコーディオンの蛇腹を押すと(縮める)とEメジャーコードが鳴り、蛇腹を引く(伸ばす)とAメジャーコードが鳴ります。
これをパワーコードにすると、メロディ次第で、「Eメジャーコード」にも「Eマイナーコード」にも聞かせられるし「Aメジャコード」や「Aマイナーコード」にも聞かせられるのです。
つまり単純にコードバリエーションが倍になったといえます。
※厳密には、「押し」で鳴るコードが、別のボタンの「引き」のコードと被っている箇所があるので単純に全体のコードバリエーションが2倍になるというわけではない
さてここで実際に演奏を見てもらいます。
まずは3和音で演奏した場合。
3和音の演奏の動画を見て、ん?と思われたと思います。
特に8秒あたりは顕著です。
これはメロディー的にはEマイナーコードが合うところにEメジャコードが鳴ってしまっている為、音がぶつかっているのです。
このような時は「メジャー」にも「マイナー」にも対応しやすいパワーコードにする必要があります。
続いて、パワーコードで演奏した場合。
もちろんEマイナーコードに合うメロディーであれば3和音でも問題ありません。
3和音の特徴が生きる曲も沢山あります。
ですが、4つのコードボタンで「様々な調のメロディー」に合わせようと思うと、パワーコードが必要になってくるのです。
衝撃の事実
はい!ようやくここからが本題です!(前置きが長すぎた)
これは20年ほど前のSaltarelle社のアコーディオンです。
とある人から中古楽器として買わせていただきました。
ん!?!?
お気づきですか?
ボタンの仕様やドライな音質など、今のSaltarelle社のアコーディオンとそう変わりません。
ですが、一つ大きな違いがあります。
それは「2和音と3和音を切り替えるレバー」がついていないのです。。。(なんてこった)
昔のアコーディオンに限らず、比較的安価なボタンアコーディオンには、切り替えレバーがないものがあります。
このアコーディオンは基本「3和音」の固定なのです。
「汎用性のあるパワーコードが使えないという事は、コードボタンを使う上で、演奏できる曲の調が限られてくるのか。。。。」
ボタンアコデビューしたての僕は絶望しました。
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朗報です!
実はこの和音の切り替えレバーがなくとも、パワーコードが出るように改造できるのです!
アコーディオンを改造しよう!
まずはアコーディオンのお尻の部分の蓋を外してみてください。
するとこのように8つのボタンに連動する8つの開閉式の木の板のようなものが出てきます。
1つのボタンを押すと1つの木の板がパカッと開き、そこから音が出ます。
コードボタンなら1つの木の板の下に3つの穴があり3和音が出るのです。
その3つの穴のうち1つをガムテープで塞いで無理やり2和音にしてしまおう!というのが今回の目的です。
(改造と言いつつ、けっこう原始的)
ピンセットとガムテープがあれば出来ます。
ここで大事なのは、3つの穴の「真ん中の穴」が「真ん中の音」とは限りません。
この辺はアコーディオンによって違うかもしれませんので、1つずつ塞いで残り2つの穴からパワーコードが鳴るかどうか、ご自身の耳で聴き分ける必要があります。
すべてのコードをボタンをパワーコードにすれば完成です!
レバーのように2和音と3和音を瞬時に切り替えはできませんが、ガムテープを外せば3和音に戻せます。
僕は演奏の上で2和音でも十分だと感じましたし、ボタンアコーディオン奏者の吉田文夫さんも、十分だとおっしゃってくださったので、これからパワーコードでいこうと思いました!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ボタンアコーディオンはコンパクトが故に出せる和音に制約があります。
その制約の中でいかに工夫して、演奏をするか。
それが難しさでもあり楽しさでもあります。
メロディーだけでも十分楽しい楽器です。
僕はそんなボタンアコに魅了され、楽しいボタンアコライフを送っています。
現在3種類のボタンアコーディオンが京都店にありますので、興味のある方は是非試奏にいらしてください!
最後に吉田文夫さんの素敵な演奏をどうぞ^^