【夏至の徹夜祭 】オーケストラアレンジで聴くケルト・北欧の伝統音楽

ライター:吉山雄貴

夏至の徹夜祭

クラシック音楽の作曲家に限定すると、北欧には有名な人物が3人います。

1人は、ノルウェーのエドヴァルド・グリーグ。

そして、フィンランドのジャン・シベリウス。

最後に、デンマークのカール・ニールセンです。

はい。この3人だけだといってよいと思います。――スウェーデンはどうした?

実は、知名度では上記3名に大きく差をつけられていますが、スウェーデンにも、たいへんチャーミングな曲を書く人物がいます。

その名も、ヒューゴ・アルヴェーン(1872-1960)。

手元にある辞書や百科事典を引いてみると、物理学者のハンス・アルヴェーン(別人)しかヒットしませんでした。あな悲し。

でもいちおうこの人、スウェーデンで唯一、国際的な評価を獲得した作曲家といわれています。

反面スウェーデン国内では、ヴィルヘルム・ペッテション=ベリエルという別の作曲家のほうが、深く愛されているとも聞きますが。……なぜなのさ。

アルヴェーンの代表作にして、スウェーデンのクラシック音楽でもっとも人気があるとされる楽曲が、今回とり上げる「夏至の徹夜祭」です。

「夏至の徹夜祭」は、アルヴェーンの3つある「スウェーデン狂詩曲」の中の1曲目。

スウェーデンの伝承曲を引用しています。

長さは15分ほど。

さて、北欧では、夏至の日の夜は本当に、眠らずに踊り明かすそうです。

なんたって高緯度ですからね。たとえ白夜のおこらない地域でも、夜10時ごろまでふつうに明るいらしいです。

べ、別にうらやましくなんかないんだからねっ!

この狂詩曲のテーマは、そんな夏の一夜のようすだとのこと。

まずは聴いてみてください。

冒頭、いかにも民族音楽って感じの旋律が流れます。

描かれているのは、若者たちがダンスに興じている光景。

ちょっとしたきっかけで口論がおき、ほどなくして殴り合いに発展。

曲も狂乱の様相を帯びてきます。

この曲はThe Sessionにも登録されています。

曲名はズバリ、The Swedish Rhapsody(スウェーデン狂詩曲)。

原曲の名前、誰も知らんのかい。

The Swedish Rhapsody

ところでこの部分、「きょうの料理」というテレビ番組のオープニングテーマと似ている、と一部で指摘されています。

コレが問題のテーマ曲。

こちらの作曲は、冨田勲先生(1932-2016)。

彼、先行する作品へのオマージュを、けっこう頻繁におこなうかたです。

最晩年の「イーハトーヴ交響曲」なんか、フランスの伝承曲を元に書かれた「セヴェンヌ交響曲」という楽曲を、もともと日本の民謡だったように聞こえるくらい、和風テイスト濃厚な作品に書き換えてるし。

まさに換骨奪胎!

それを考えると「きょうの料理」も、「夏至の徹夜祭」へのオマージュであることが、十分に考えられますね。

さて、若者たちの大ゲンカはますますヒートアップ。

身の危険を感じたのか、男女2人がそそくさと退散します。

真夜中。

真夏の太陽をのぞいて、完全に寝静まった自然。

そんな場面を描きだすのが、Vindarna sucka uti skogarnaという伝承曲。

この曲、You Tubeに投稿されている動画のいくつかでは、Sorrow Winds(嘆きの風)などといった英訳がつけられています。

その名のとおり、聴くだけで心まで凍りつきそうな、悲しい曲調です。

が、この狂詩曲におけるアレンジは、せいぜい踊り疲れて眠くなってきたような、気だるい感じ。

朝がくるのを待って2人が祭りの場に戻ると、いつの間にかケンカも収まり、踊りはすでにクライマックス。

冒頭にも増して、活気に満ちています。

ここで使われているのは、Morsgrisar är vi allihopaという伝承曲です。

幸福な雰囲気に包まれたまま、曲はフィニッシュ。

「夏至の徹夜祭」をもっとよい音質でたのしみたいかたは、コチラのCDをお試しあれ。

【スウェーデン管弦楽曲集】
ヘルシンボリ交響楽団
指揮:オッコ・カム
録音年:1994年
レーベル:ナクソス

スウェーデン出身の、6名の作曲家のオーケストラ作品が、収録されています。

いちおう、同国で書かれたものの中では、比較的有名な管弦楽曲がえらばれているようです。

が、「夏至の徹夜祭」も含めて、私ははじめて聞く名前のものばかりだったな。