【私とケルト音楽】第六回:音楽レーベル プランクトン/プロデューサー 是松渓太さん 中編

インタビュアー:天野朋美

様々な分野で活躍している方をゲストにお招きし、ケルトにまつわるお話を伺う「私とケルト音楽」。

今回はワールドミュージックなど未聴の世界を届けてくれる音楽レーベル「プランクトン」から、プロデューサーとして活躍している是松渓太(これまつけいた)さんです。

今回は是松さんにケルト音楽との出会いやその魅力について語っていただきました。

どうぞお楽しみください。

是松さんとケルト音楽の出会い

――ケルト音楽との出会いを教えてください。

是松:僕の父が音楽を聴くのが好きで、家ではロック、クラシック、ジャズなど一つのジャンルに偏らず色々な音楽が流れていました。

僕は昔から聴いた事のない音楽を知りたいという気持ちが強くあって、ロックなど聴いていく中で自分自身がケルトやフォークロアミュージックを取り入れているものに惹かれる傾向にあるとわかってきました。

例えばポール・マッカートニーのマル・オブ・キンタイア(邦題:夢の旅人)という曲は三拍子のワルツなんですが、バグパイプが鳴っていてかなりトラッドを意識していますよね。

学生時代には毎日CDショップに行って新しい音楽を探していました。

当時は今よりワールドミュージックコーナーが広かったんですよね。

本格的にケルト音楽に出会ったのはチーフタンズです。

ロックを聴いていると必ずチーフタンズの音にぶち当たるんです。

というのも、70年代にロックミュージシャンの間でルーツ・ミュージックが流行した時期があって、彼らはミック・ジャガーやスティングとコラボレーションしていました。

国際社会やグローバル化が進む中でその国独自のものを自分たちのアイデンティティとして外に出していこうという時代だったんです。

あとは、ヴァン・モリソンは崇拝するほど好きですね。

――その当時、同じ趣味を分かち合える人はいましたか(笑)?

是松:いや…、いないですね(笑)。

周りの人たちはみんな、ミスター・チルドレンや小室哲哉、スピッツを聴いていました。

ロックが好きな人でも聴いていたのはエルレガーデンやモンゴル800でしたね。

アイリッシュギター奏者の長尾晃司くんとは10年以上前に出会ったのですが、初めてミュージシャンのジョン・ドイルについて話が盛り上がった人で、それからずっとお付き合いが続いています。

ケルト音楽との出会いと言えばもうひとつ、今30~40歳位の年齢の僕の世代ではゲーム音楽の影響が強いですね。

特に90年代のスクエアで、作曲家の植松伸夫さんや菊田裕樹さんの存在は大きかったです。

それと知らなくてもゲームをする中で特有の音色やコードが体に入っていて、後からケルト伝統音楽に出会ったときに異物に聴こえなくなっていたんです。

僕だけじゃなく、この世代でケルト音楽に関わる人ならみんな納得するほど植松伸夫さんの影響は大きいと思います。

当時ゲーム音楽で使える音数の制約があったため、少ない楽器でも十分魅力が伝わるケルト音楽がゲーム音楽としてハマったり、グラフィックが今ほど綺麗ではなかったぶん、世界観を作るのを音楽で助けていました。

もちろんファンタジーの原点がケルト文化にもあるということもあり、ゲームの世界がケルト音楽を呼んだとも言えますね。

「ケルティック・ムーン」というファイナルファンタジーⅣの曲を現地ミュージシャンで再録したアルバムがあって、そこにシャロン・シャノンなども参加してるんですけど、それもよく聴いていましたね。

アイリッシュ音楽は生きる人すべての為のもの

――ケルト音楽は癒されるという人が多いですが、是松さんはいかがですか?

是松:そうですね、僕はケルト音楽に限らず文学や暮らしなど文化全般が好きで、そこに魅力を感じますね。

例えば料理が凝りすぎていない所なんかも気に入っていて、ひとつのプレートに色々なジャガイモ料理が乗っていたり、アイリッシュシチューなんかも「とりあえず煮込め!」みたいなところがあって(笑)。

アイリッシュ音楽は、生きる人すべての為の音楽だと思います。

野原から草花が生えるように、何もない所で皆が好きなように演奏すると、それが音楽になるんですよね。そういう音楽の在り方は、音楽的な必然性が高いと言えます。

キリスト教が入ってくる前のアイルランドは、一神教的な考えではなく人間が大きな物の中の一部という考え方をもっていて、それは今でも彼らの中にあります。

ケルト紋様は直線がほとんど無く、彼らは世の中がそういう風に見えていたんだと思うんです。

どこから始まってどこから終わるかわからない。

それは音楽も同じで、セッションにおいても終わりと始まりがはっきりしていないんですよね。

また、アイリッシュ音楽は誰がどの楽器をやっても良くて、それが心地いいんです。こういう音楽を広げていきたいと強く思います。

――なるほど!マイナー調の曲もとても素敵ですよね…

是松:そうですね、胸にぐっとくる哀愁感のある曲は近代に作られたものだと思います。

彼らの歴史は敗者の歴史で、彼らにとって音楽は生きるために鳴らす音だったんですよね。

だからその中には辛い感情や、大事だった土地を離れないといけなかった郷愁が総じて強いんです。

強さと感情の豊かさが同時に入っていて、民族の歴史を背負ってきていると思います。

それが、ケルト音楽が人々の心の奥に作用する大きな理由ですね。

なので、アイリッシュ音楽はのんびり聴けるかというとそうではないんです。

癒しの音楽ではあるけどそれだけでなく、意外とヒーリングミュージックの立ち位置にはなれないと思うんですよね。

面白いのは、それが世界中に広がっていることです。

普通は違う土地に行けばその土地の文化に吸収されてしまうものですが、アイルランド音楽は形を変えながら強いアイデンティティがその場で広がり続けています。

雑草のような力強い生命力を持っているんです。

今もアメリカでは3月になればアイリッシュ音楽が鳴り響いています。

何年経っても文化が広がり続けているのが大きな特徴ですね。

ワールドミュージックは日本で仕事として成立するか

――是松さんはアイルランドに行ったことはありますか?

是松:アイルランドには25歳の時に行きました。

その当時は日本の某ロックバンドの現場マネージャーをしていたのですが、その仕事を辞めて渡愛しました。

そのバンドはワールドミュージックにも興味がある人達で、よくプランクトンで扱っていた海外アーティストのCDを聴いたり、アイリッシュ音楽の話をしていました。

2007年にそのバンドが野外フェスをやることになって、そこで海外アーティストを呼ぶためにプランクトンに相談に行ったことがあって、そこから僕とプランクトンのつながりが出来ました。

その仕事自体は楽しかったのですが、日本の音楽業界の体制が肌に合わないと感じていました。

それである時プランクトンの代表の川島に、「自分は本当はワールドミュージックが好きだけどその音楽が経済効果を生むことが出来ると思えないでいたので、プランクトンのやり方にすごく興味があるんです。

まずは海外でどうやってワールドミュージックがビジネスになっているか見にいきたいんですが…」と相談したら、「ぜひ行った方がいい!」と背中を押してくれ、帰ったら連絡するようにと言われました。

帰国して連絡したとき、言った本人はそのことを覚えてなかったんですけどね(笑)。

――仕事を辞める事になり、当時のバンドの反応はどうだったのですか?

是松:「そっちのが合ってるからええんちゃう?」と気持ちよく送り出してもらいましたね(笑)。

それで、アイルランドにワーキングホリデーを使って1年ほど行きました。

アイルランドにいる間は地元のインディーズレーベルのロックバンドと仲良くなって、彼らのイベントの手伝いなんかをしていました。

そこで感じたのは、「この音楽の在り方は日本で通用しない」ということでしたね。

――どうして日本では難しいと思ったのですか?

是松:アイルランドと日本では音楽の在り方が全然違いました。

日本は音楽マーケットに乗らないと音楽が出来ないんですよね。

バンドがライブハウスで演奏するためにノルマがあって、ゼーゼーしながら辛そうにやっていることが多いですが、アイルランドでは働きながら気楽にライブをしたり、それが商売にならなくても続けられる環境なんですよね。

音楽の在り方が自然だと感じました。

結局、自分がやりたいと思っているワールドミュージックを日本で、自分が食べていけるだけのお金を稼ぎながらやるのは不可能という結論で日本に帰国しました。

それであらためて、自分が不可能だと思ったことを日本で社員を抱えながら運営しているプランクトンで勉強したいと思い入社したんです。

――プランクトンに実際入社してみていかがでしたか?

是松:やっぱり普通にやっていたら成り立たないことで、成り立たせるためにあらゆる工夫や努力をしているという事がわかりました。

これを30年以上継続させている代表の川島は凄い人です。

(おわり)

音楽レーベル プランクトンからプロデューサーの是松渓太さんをお迎えした「私とケルト音楽」、いかがでしたか?

次回も引き続き是松さんをゲストに、是松さんが関わったアーティストとのエピソード、そしてこれからの音楽業界の在り方についてお届けします。

どうぞお楽しみに!

【Profile】

ゲスト:是松渓太(これまつけいた)
プランクトン/プロデューサー
http://plankton.co.jp/xmas20/index.html
インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
ケルトを愛するシンガーソングライター、やまなし大使。
2019.11.9セカンドアルバム”Songs for Braves蕾の目覚めを信じて“をリリース
https://twitter.com/ToMu_1234

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