Seán Corcoran氏を偲んで


出典 https://journalofmusic.com/news/rip-singer-and-collector-sean-corcoran

みなさま、お元気ですか。Micheal 菱川です。「クラン・コラ」を創刊当時からお読みの方は憶えていてくださるかもしれません。

Cran, ‘Seacht Suáilcí na Maighdine Muire’

アイルランドのグループ クランCranが来日したあとに、もう一度来日してもらいたい、そのために何か役立つことができないか、との思いを抱えて、本「クラン・コラ」誌の創設のアイディアを大島 豊さんに相談しに行ったのが昨日のことのように思い出されます。

「クラン・コラ」の名称は私が考えたのですが、〈森の木〉を意味するアイルランド語 crann coille から来ています。『アイリッシュ・ミュージックの森』(1997) というご著書もある大島さんはその名を快諾されました。お気づきの方もあると思いますが、この「クラン」の部分にはひそかにアイルランドのグループ名 Cran をしのばせていました。

その Cran のメンバーの Seán Corcoran さんが2021年5月3日、享年74歳で帰天されたと聞き、偲び草を一筆しなければと思い立ちました。

Cran が来日公演を終えて帰ったあと、さっそく彼に連絡をとりました。私はアイルランド語の詩歌を研究しており、伝承歌の研究者でもあるショーン・コーコランさんにお尋ねしたいこともあったのです (アイルランド語の勉強を始めたきっかけは、大島さんのニフティサーブのSIGでの発言でした)。

返信でコーコランさんは貴重な情報をお伝えくださり、それを元に論文を執筆しました。

ロシアとアイルランドの口承性を扱った「連鎖の感覚」という論文です (「SAP」10号、日本詩学会、2002)。その中で取上げた「聖母マリアの七つの御喜び」(‘Seacht Suáilcí na Maighdine Muire’) の1連4行について、聴取ったクランの歌詞 (アルバム ‘Black Black Black’ [1998] 所収) をコーコランさんに訂正してもらいました。

「SAP」誌はもう刊行されていませんが、この論文をお読みになりたい場合は、電子書籍化したものが簡便かと思います。アマゾンの Kindle 書籍で〈連鎖の感覚〉で検索すれば出てきます。

Kindle といえば、最近、電子書籍の形態以外に、紙冊体でも出版することができるようになったので、アイルランド語無伴奏歌唱のシャン・ノースに関する Kindle 電子書籍『シャン・ノース 秘密の唱法: ジョー・ヒーニの場合』を紙の本でも出版しました。シャン・ノース唱法で歌のどの箇所に装飾音 (ターン、ロールなどのこぶし) を入れるかの門外不出の〈秘伝〉を日本で初めて書いた本かと愚考します。

ショーン・コーコラン氏は1946年、アイルランド東部のラウズ県 (アイルランド語で Contae Lú) の Clogherhead (アイルランド語で Ceann Chlochair) 生まれ。Clogherhead および Drogheda (アイルランド語で Droichead Átha) で育ちました。

アイルランド放送協会 (RTÉ) のラジオ第1チャネルで2021年5月30日、人気番組 ‘The Rolling Wave’ の日曜版で、ショーン・コーコラン氏が追悼されました (DJ は Aoife Nic Cormaic)。

https://www.rte.ie/radio/radio1/the-rolling-wave/programmes/2021/0530/1224940-the-rolling-wave-sunday-30-may-2021/

氏は、歌い手、伝統音楽収集家、学者、研究者、テレビ・ラジオ番組制作者として知られると紹介され、音楽家として多くの人と共演したとして、バンド Cran の名前が挙げられました。

収集家としては、ブランダーン・ブラナハ (Breandán Breathnach) や北アイルランド芸術協会 (Arts Council of Northern Ireland) やアイルランド伝統音楽カーカイヴ ITMA (Itish Traditional Music Archive) のために研究や歌の収集をおこないました。

番組で最初にかけられた曲が、何と上で挙げた「聖母マリアの七つの御喜び」のオーケストラとの共演版でした。ラジオで初めてかかるとのことです。

ソロ歌唱はショーン・コーコラン、演奏は The Boyne Chamber Orchestra および Mick O’Brien (whistle)。実にすばらしい編曲 (Michael Holohan) で、特にコーラスのアレルヤの部分は歌と器楽とのアンサンブルが絶妙です。RTÉ のウェブサイト (www.rte.ie/) で Sean Corcoran で検索すると、The Rolling Wave Sunday 30 May 2021 がヒットすると思います。機会があれば、ぜひお聴きください。

聴かれる方のために、1連の歌詞を、上記の論文から引用します。

An chéad shuáilce a fuair an Mhaighdean Bheannaithe
Nárbh í sin an tsuáilce mhór:
Suáilce a fuair sí óna hAon-Mhac Íosa,
Gur rugadh é i mbothán cró.
Seinn alleluia, seinn alleluia,
Seinn alliliú, seinn alliliú,
Seinn alleluia.
童貞聖マリアが見出した最初の喜び
それは大いなるよろこびでなかったろうか。
ひとり子イエズスから得たよろこび、
すなわち、イエズスが馬小屋でお生まれになったこと。
アレルヤとうたえ、アレルヤとうたえ、
アリルーとうたえ、アリルーとうたえ、
アレルヤとうたえ。

この一文のために、氏が書いた文章を収める本 (Crosbhealach an Cheoil『音楽の十字路会議』, 1996, 2003) があるはずと、探しましたが、出てこないので、それについて書くことはできません。

そう思いながら就寝時に、528 Hz を元に組上げられた音楽を聴きながら寝ました (iPad のタイマーで音源として ‘Stop Playing’ を選べば任意の音楽を指定時間後に再生停止できます。YouTube も可)。

そうすると、古アイルランド語に関する夢を見ました。夢の内容はコーコラン氏とは違うのですが、一つのヒントを感じました。ソルフェッジョ周波数 (528 Hz もその一つ) とアイルランド音楽の関わりを探ってみるとおもしろいのではないかという示唆です。既にそんな研究があるかもしれません。手初めに、同周波数の一つである432 Hzで調律した (アイルランド) 音楽を探ってみます。ライアー奏者やギター奏者にはおられます。

432Hzの周波数と音楽の問題ともからむのですが、ルドルフ・シュタイナーをアイルランドの妖精たちが知っていると本で読んだことがあります (Tanis Helliwell, ‘Summer with the Leprechauns’, 1997/2011)。妖精が、古代の存在の末裔である、と聞いた話と合わせて興味がつきません。

ショーン・コーコラン氏のことを考えながら次々と浮かんだことを記しました。氏の霊魂の安息を祈ります。

Ronan Browne (uilleann pipes), Desi Wilkinson (flute) & Seán Corcoran (bouzouki)