【私とケルト音楽】第13回:楽器工房ダルシクラフト 井口敦さん 前編

シンガーソングライターの天野朋美がお送りする「私とケルト音楽」。

このコーナーでは様々な世界で活躍している方に、ケルト音楽との出会いやその魅力についてお伺いしていきます。

今回は、普通の楽器屋さんでは売っていない欧米の民族弦楽器ハンマー・ダルシマー、ニッケルハルパ、アイリッシュ・ブズーキなどの修理・製作・輸入・販売を行っているDulciCraft(楽器工房ダルシクラフト)よりオーナーの井口敦さんにお話を伺いました。

読者の皆様の中でもこちらに行かれた事のある方も多いのではないでしょうか。

どうぞお楽しみください。

楽器工房ダルシクラフトについて

――扱っている楽器の修理について教えてください。

井口:修理業務の対象とする楽器は次のとおりですが不明な楽器はお問い合わせください。

ハンマー・ダルシマー、マウンテン・ダルシマー、ニッケルハルパ、キム、ハックブレット、ヤングム、カンテレ、アイリッシュ・ブズーキ、アイリッシュ・ハープ、アルパ、オートハープ、フラット・マンドリン。

なお、ギター、フィドル、ボウルバック・マンドリン、馬頭琴、邦楽器、鍵盤楽器、管楽器は原則として扱っておりません。

専門店があるものもございますので、必要に応じてご紹介します。

以前オルガン修理のお問い合わせもありましたが、何でも直せる訳ではありません。

Dusty Strings, Master Worksのハンマー・ダルシマーについてはメーカー保証修理も承っております。

不具合内容をメーカーに報告し、メーカーが保証範囲と認めた場合はお客様には無償にて修理サービスを提供します。

日本は北海道を除き、一般に梅雨時から夏場は非常に湿度が高く、木製の楽器にとっては厳しい環境です。

不具合の8割くらいは高湿度により木が膨張し歪むことが原因になっています。

お部屋に除湿機を入れてやや神経質に湿度を管理するのが望ましいところです。

――楽器の販売について教えてください。

井口:当初は修理を中心にスタートしましたが、新たな楽器の購入のご依頼も少なくなく、現在ハンマー・ダルシマーは主要メーカーのDusty Strings, Master Works, Songbird Dulcimer, Jame Jones, Song of the Woodの公認代理店として輸入販売を行い、Dusty Strings, Master Worksからは公認修理技術者としても認定いただいております。

マウンテン・ダルシマーにおいてはMcSpadden DulcimerおよびTK O’brie’sの公認代理店となっており、また最近フィンランドのカンテレ・メーカーLovikkaの販売も開始しました。

中古品の販売にも力を入れており、仕入れた中古品はきちんと整備したうえで提供しております。

独立と工房設立

――工房立ち上げの経緯を教えてください。

井口:2005年に電機メーカーを早期退職し、楽器職人になりたいと思い名古屋あたりの工房を見学に行き検討していたところに、スウェーデンの建機メーカーからオファーがあったので楽器職人はもう一稼ぎしてからにしました。

この時採用してくれた日本法人の社長はアイルランド人、本社事業部長はドイツ人、スウェーデンの会社なのでスウェーデン人の同僚も多く、欧米、アジアに多くの知己を得ました。スウェーデンには頻繁に出張に行く機会があったので、それなら民族楽器を訪ねるべきだなあと思いまして。

最初はどこに職人さんがいるかわからなかったので、アメリカにいたスウェーデン人にしかるべき方を紹介してもらい、そこからネットワークが広がって1人、2人と知人が増えていきました。

スウェーデンの会社の同僚にニッケルハルパを始めたというと、それは珍しいとか、名前は知っているけど…という反応でしたね。

スウェーデンの会社を定年退職後、いよいよ楽器職人になりたくて、スウェーデンのニッケルハルパ・ビルダーを訪ねたり、アイルランド、ゴールウェイのPaul Doyle InstrumentsのIrish School of Lutherieに短期留学して、楽器の製作を学びました。この時に製作したアイリッシュブズーキは現在もステージでメインに使っています。

――アイルランドでのお話を詳しく聞かせてください。

井口:ゴールウェイの工房ではアイルランドの程よい、いい加減さがあって、朝一番というのは昼の12時とか12時半なんですね。

そこから始まって8時間から9時間作り続けます。

1か月のコースで組んだのですが、1カ月で1台作るというのはなかなか初心者には厳しくて、ほとんど宿舎と工房の往復でした。

環境もなかなかのもので、削った木はそのまま床に落としてあり、あまりに汚いと弟子が掃除を始めるといった感じでしたね。

スペイン人やロシア人、日本人の女性がハープを作っていました。

1ヶ月ちょっとのゴールウェイ滞在で少しは普通のアイルランドの生活を垣間見ることができました。

しかし、日本人はどうしてこうもマニアックなんでしょうね。

ゴールウェイの通りでバスキングしている若い日本人女性は一人ではなかったし、アラン島に行けばセーターの編みを勉強に来ているおば様がいたりします。

楽器作りは当然1ヶ月で習得できるほど簡単ではないわけで、帰国後、国内のギター工房に通ってアコースティックギターを1台製作、それでもまだまだ足りなくて新設された代官山音楽院のギター・製作・リペアコース夜間課に2年通い弦楽器製作・リペアの基礎を学びました。自宅では大型の製作の電機工具を置けないので、近くにあったシェア倉庫の一室を借り、工房開設の準備を始めました。

また、アメリカ、シアトルのハンマーダルシマー・メーカーDusty Strings社の社長にお願いし、同社の工場で1週間の研修を受けさせていただきました。

こういった準備にはそれなりに費用がかかるので、昼間は東京都の外郭団体で海外展示会アレンジの仕事をして食いつないでおりました。

いつまでも準備を続けるわけにもいかないので、2017年1月1日付けで個人事業主としてDulciCraft(楽器工房ダルシクラフト)を創業しました。

(つづく)

【Profile】


出典 https://dulcicraft.com/

ゲスト:井口敦(いぐちあつし)
普通の楽器屋さんでは売っていない欧米の民族弦楽器ハンマー・ダルシマー、ニッケルハルパ、アイリッシュ・ブズーキなどの修理・製作・輸入販売を行っているDulciCraft(楽器工房ダルシクラフト)オーナー。
https://dulcicraft.com/
インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
ケルトを愛するシンガーソングライター、やまなし大使。
株式会社カズテクニカCM出演中。
https://twitter.com/ToMu_1234