「指を高く上げるのはド素人だ」という指摘をいただきました 後編

ライター:hatao

こんにちは! ケルトの笛のhataoです。

先週投稿した前編はかなりショッキングなタイトルだったためか、大きな反響を呼びました。

https://celtnofue.com/blog/archives/6211

Twitterでは500以上の「いいね」、234のリツイートをしていただきました(2020年9月28日現在)。

当店のSNS運営では初めての記録で、「バズった」と言ってもよいと思います。

関心を寄せてくださった皆様、ありがとうございます。

多少は批判等も来るのではないかと予想していたのですが、そういったご意見はまったくのゼロで、それどころか様々な好意的なご意見をいただきました。

前編では、

(1)私hataoの運指が高いのは間違いない

(2)世界の名人も高く指を上げている

(3)笛奏者が高く指を上げるのには理由があるからである。指を上げることそのものには全く問題はない。そして運指だけを持って素人だと決めつけることはできない。

と論じました。

ここの時点でもう何も言い足すことはないのですが、今回はさらに踏み込んで他ジャンルで活躍する知人の皆さんにもご意見を伺ってみました。他の文化や楽器では指の高さについてどのように考えているのか、聞いてみたかったのです。

能管奏者 朱鷺たたら様

運指はおっしゃる通り効率よいに越したことないと思うでしょうが、その効率とは? そのものさしは何? という観点が狭すぎるコメントですね。

無駄に大きな動きの代表としては和太鼓があると思いますが、あの奏法に合理性を持ち込んだら面白さが半減しますし、パフォーマンスとしての面にも大きな価値がありますものね。

笛の指の大きな動きはパフォーマンス性もあると思います。あとキーがついていないから、かぶせてるとピッチがさがりますしねぇ……。

バーンスリー奏者 寺原太郎様

https://www.youtube.com/watch?v=QF0kq0ZgCPQ

バーンスリーに限らず指孔のある気鳴楽器では指孔のすぐ上に指をかざしていたら音程が下がってしまうので、正しい音程を得るためには指が必要なだけ指穴から離れている必要がありますよね。

その上でバーンスリーではそれを避けるためもあって、指を真上ではなく斜め上方に上げています。

指がどの位置にあるか。それは音楽の中で要求される音や技巧によって決まることであって、指が高く離れてるから初心者だなんて浅はかな知見もいいとこです。

ケーナ奏者 橋本仁様

モダン・フルートでは確かに指を上げませんね。それを見ている人からは違和感があったのではないでしょうか。

ケーナは指孔の大きい楽器なので指を高く上げるのはあまりメリットがないように思いますが、自分は多分高く上げる方だと思います。

ケーナの場合下を向いて吹く人もいますがそういう人は指を高く上げると笛が不安定になるでしょうから、ひょっとしたら笛を構える角度にも左右されるところがあるかもしれませんね。

以上を読む限りでは、指は低すぎるのは問題が生じること、また運指が高いことだけをもってして初心者だとは言えないことがわかりました。

また、以下のようなコメントもいただき、励まされました。

トラヴェルソ奏者 森本英希様

演奏そのものを判断する方であれば、hataoさんの演奏を聴いてあのような言い方はしないと思います。一聴すればわかるはずです。

他人が表現のために苦労して習得したものよりも自分の美意識の方が上位に来るような人は、僕には理解しがたいです。

リコーダー奏者の本村睦幸様は、この件についてご自身のTwitterで解説をお書きになり、「指を大きく動かすことで指の速度が上がる」という趣旨をnoteにまとめてくださいました。

これを読んで膝を打つ思いでした。
アイリッシュのような速い運指が常に求められる音楽では、「叩き」の動作の有る無しに関わらず、指の位置が低くては演奏速度についていけないことを実感しています。それにはこのような理由があったのですね。

前編では論じませんでしたが、指を高く上げるのは奏法上の理由以前に楽器の構造上の理由があります。

モダン・フルートでは指孔がタンポでカバーされているので、キーの上であればたとえキーと指がくっついていても音程に影響はありません(リング・キー式は除きます)。

そのためキーから指が遠いと無駄に感じられて「指を高く上げてはいけない」と信じられているのでしょう。(それが正しいかどうかはここでは論じません)

しかしモダン・フルート以外のシンプルな笛、つまり指孔がタンポでふさがれていないほぼすべての笛は指孔に指が近づくと音程が下がってしまいます。

笛を吹く方はどのくらい指孔に指が近いと音程に影響を及ぼすか、一度実験をしてみてください。塞いでいないのに指を指孔に少し近づけるだけで音程が下がることがおわかりになるでしょう。

今回はアイルランド音楽に限らず、人間の運動の原理として素早い運指には大きなアクションが必要であることを知ることができました。炎上しそうな話題ではありましたが勇気をもって検証した甲斐がありました。

レッスンの現場で「指を高く上げてはいけない」と言われ正しいものと信じ込んでしまっている教師・先輩・生徒がいたとしたら、今回の検証記事を読んでみてください。演奏改善のヒントがあるかもしれません。

結論です。

音楽家の身体運動は音楽表現に付随するものです。音楽家は求める音楽を実現するのに必要な運動をしているだけにすぎません。

音楽とは杓子定規な身体の動きの良し悪しを論じるものではありません。「体の使い方が○○だから音楽が悪い」という思い込みによって音楽が楽しめないのだとしたら、それはとても残念なことです。一度目を閉じて音楽だけに集中してみることをおすすめしたいと思います。

そしてこのメールを送った方に申します。

この国では何を信じるのも自由です。「指が高いから素人だ」と思うのであれば、周りがどう言おうとそれはあなたの心の中では正しいのかもしれません。思想信条は多数決によって強制されるべきものではありません。

しかし自分の考えを異なる考えの人に押し付けるのであれば、それはハラスメントとなります。ハラスメントは人を怒らせ傷つけるだけでなく、自分の見識の狭さをさらけ出し、恥ずかしい思いをすることになります。

このメールを送った方が、この件から何かを学ばれることを願っています。

最後にTwitter、Facebook、ブログに集まったコメントを引用します。これらは一般公開されており、誰でも読むことができるものです。
コメントはすべて拝見いたしました。返信が追いつかず個別に返信をすることができない旨お詫びいたします。ご感想、ご意見をありがとうございました。

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