アコーディオン、コンサーティーナ奏者の吉田文夫さんに「ボタン・アコーディオン」について解説していただきました。
楽器の種類と特徴
ボタン・アコーディオンには2種類ありますが、ここで取り上げるのはダイアトニック式と呼ばれる、一つのボタンを押した時に蛇腹の開閉(押し引き)で音の高さが変わるタイプの楽器です。
現在では、ピアノ鍵盤式のクロマチック式アコーディオンがポピュラーな存在になっていますが、19世紀には、先ずこのボタン式で押引異音のダイアトニック式のタイプが作られました。
日本でも身近な楽器ハーモニカ(ダイアトニック式)と同じで、どちらもリードと呼ばれる金属製の小さな板に空気を送って板を振動させて音を出します。
ハーモニカは口から直接リードに息を吹きかけて音を鳴らしますが、アコーディオンは蛇腹の開閉で空気を送ってリードを鳴らします。
最初は1列の機種が作られてC、D、Gなどそれぞれ決まった音階だけでの演奏でしたが、その後、2列または3列と複数列の機種が作られる様になると用途が広がり、各地域の音楽に合わせたキー配列の組み合わせで、様々な機種が作られました。
各列キーの違いはあっても、1列での音の並び方はダイアトニック全般に共通です。
アイルランド伝統音楽の場でも19世紀以降、この楽器の需要が高まり、1列機種と共に2列の各列が半音ずらしのシステムB/C, C#/D等の機種が好まれて使われる様になりました。
ちなみに他地域の2列式は、イングランドではD/Gが主流で、ヨーロッパ大陸ではC/G、C/F、等々が使われていて、この半音ずらしのタイプはアイルランド音楽の場でしか使われていないとも言えます。
B/C、D/Gと言った呼び方もダイアトニック式ならではの事ですが、後に発展した押引同音のクロマチック式アコーディオン(ピアノ鍵盤式またはボタン式)は、半音階的で全ての音域をカバーする事で急速に普及していきます。
特に日本ではアコーディオンと言うと、このピアノ鍵盤式がすぐ思い浮かぶくらいです。
ダイアトニック式のB/Cシステムは、役割的にはこのクロマチック式に近い(C列=ハ調、をメインにB列がピアノの黒鍵の役目を果たす)楽器と言えるかも知れません。
B/C 機種は2列を行き来する、やや複雑な奏法(クロスフィンガリング)になりますが、それ故の特徴的な装飾奏法が代々の名演奏家に依って確立され、伝統楽器の中では比較的歴史が浅いながらもなくてはならない存在になっています。
また単純に1列だけで弾く時の爽快感もダイアトニック式ならではの醍醐味なので、D音階が多いアイルランド伝統音楽でC#/D機種を好む人も多いです。
楽器の選び方
ダイアトニック式ボタン・アコーディオンは、大きく分けると、音色が固定式(殆どが2枚のリードが鳴る)の機種と、ストップやカップラーと呼ばれる変換装置で複数の音色を選べるハイグレード機種があります。
それぞれ各製造メーカーによってクオリティーの違いがありますが、概ね、弾きやすさ等は価格に相応していると言えるでしょう。
ケルトの笛屋さんではB/C Busker バスカー、B/C Ceilidh ケーリー、Saltarelle The Irish Bouëbe B/Cが固定式、Saltarelle Irish NUAGEはハイグレード機種になります。
代表的な楽器工房
Saltarelle以外のダイアトニック式ボタン・アコーディオンのメーカーでは、Castagnari、Serenellini、Hohner等が有名。
また数は少ないが、コンサーティーナの様に受注限定で製作する職人も存在します。
練習のしかた
ボタン・アコーディオン(ダイアトニック式)で、アイルランド伝統音楽の奏法を学べる教室等は国内には殆どなく、独学や周りの経験者の方に手ほどきを受けるという事が一般的です。
独学の進め方としては、B/C機種の場合、最初はC列でもB列でも1列だけで自分の知っている曲を、音を探しながら弾いてみてダイアトニック式の音の並びや、蛇腹の操作に慣れて行くのも良いかと思います。
本来の使い方はC列をメインにして弾きますが、B列には半音系が多くありピアノの黒鍵のような役割を果たします。
またミとシに限ってはC列とは蛇腹の開閉が反対で付いていますので、状況に応じて便利な使い方が出来ます。
やはりG音階やC音階のスケールが引きやすいので、先ずはそれらのキーの曲から始めて、段々とD音階、A音階等の曲にもトライしてみるのが良いかと思います。
国内の参考サイトとして下記の様なものもあります。
https://www.studio-acoustic.com/category/musicschool/irish-music
本格的にアイルランド伝統音楽の演奏を志す方には、やはり本場のプレイヤーから学ぶ事が一番になります。
サマースクール等現地でのレッスンを受ける事も出来ますが、それが叶わない方は本場の音源(CD、動画等)をよく聴く事、また最近はOAIM (Online Academy of Irish Music)等の有料動画レッスン・ビデオ・サービスで、海外の演奏家のオンライン・レッスンを受ける事も出来ます。
楽器の維持管理
特別な手入れは要りませんが、高音多湿を避ける事、ケースに入れて保管する時にも演奏時と同じ向きにしておく事(寝かせた体制で置かない)。
振動に弱いので持ち運びの際は注意する事など。
主なトラブルシューティング
比較的トラブルの少ない楽器ですが、長い間弾かずに置いていると不具合が生じやすくなります。
大抵の故障は国内の所々にあるアコーディオン専門の修理屋さんで十分対応してもらえます。