アイリッシュ・トラッドミュージックシーンの女性たち:松井ゆみ子

ライター:松井ゆみ子

まずはおわびから。前号でThe Bothy BandのあとにPlanxtyが結成されたようにコメントしてしまいましたが、逆でした。Planxtyが先です。
おはずかしい。

リアルタイムで聴いていたわけではないので時系列が整わないことがしばしば。お目こぼしくださいませ。

でも、まちがったせいで気づいたことがあるので、本日のテーマはここ。

アルタンやダーヴィッシュなど、女性ミュージシャンが参加しているアイリッシュ・トラッドグループは70年代以降に登場しています。それ以前は??

アメリカとイギリスではすでに60年代、フィークリバイバルの影響を受けてジェファーソン・エアプレーンやフェアポート・コンベンションなど女性シンガーを含むヒッピーなグループが活躍し始めていましたが、同じ時期にアイルランドで結成されたのはショーン・オリアダ率いるキョートリ・クーラン、そこから枝分かれたパディ・モロニーのチーフテンズに代表される男性グループ。72年に結成されたPlanxtyも男所帯でした。

まだカソリック教会の力が強く小学校でさえ男女別々の時代に、血のつながらない男女が同じグループで活動することはもとより、ツアーすることは叶わなかったのだと初めて気づきました。

クラナドは少し早く70年に結成していますが、メンバーは家族と親族。

ポール・ブレイディが一時期在籍していたフォークグループ、ジョンストンズも兄妹で結成されていました。が、兄が脱退してポールが加入したのは67年。しかし当時の彼らはアイルランドの外に拠点を持っていたので許された模様。

Planxtyを脱退したドーナル・ラニーがBothy Bandを結成したのは75年で、男女混合グループとしては早い方ですが、こちらも女性シンガーのトリーナとともに参加しているのは彼女の兄ミホール。お目付役がいればいいわけですね。

このチューンは混声合唱でないと成立不能。

アヌーナのヴァージョンも有名ですが、ボシーバンドのシンプルさはすごいと思います。手持ち無沙汰なマット・モロイに少し同情・笑

アルタンが結成されたのは80年代後半ですが、中心メンバーのマレードとフランキーは夫婦。でもふたりが出会ったのはまだ十代で、当時はマレードの兄さんがお目付役でデートしていたと聞いたことがあります。おつきあいするのもたいへんだったのですね。

De Dannanも早くから女性シンガーをメンバーに据えているグループのひとつ。初代はドロレス・ケーンで結成当初の75年に参加、その後モーラ・オコンネル、メアリー・ブラックが続くのはみなさんご承知の通り。

ドロレスのお目付役が誰だったのかは定かではありませんけれど、ゴールウエイ界隈の地元ミュージシャンたちのグループで、家族みたいなものだったのかな。実は個人的にあまり聴く機会がなかったグループで、今頃になって”ジャッキー・デリーがいたの?あ、マーティン・オコナーも??”などと驚いているところです・苦笑

60年代以前(以降も)、アイルランドにはたくさんの女性ミュージシャンたちがいて、それぞれが活躍していたのも事実です。それでもなかなか表舞台に立てたのはごく一部のひとたちでした。

ここで書きたかったのは、トラッド&フォーク界のミュージシャンたちがツアーを視野に活動を始めた(車で移動できるような時代になったのも大きかった)ことで、時間をかけながらも女性ミュージシャンたちがそこに参加し、国内のみならず世界へ羽ばたいていった経緯と勇気です。

待てよ、今は”女性”と定義づけるといけないのかな。”女優(actress)”
も死語になりつつあってすべて”俳優(actor)”にしなくちゃいけないらしいですし。それもなんだか不自然と思うのですが。

でも明らかに、男性と分け隔てられたひとたち(このコラム内では女性!)が参加しているグループを見ると、そこに”自由”を感じるのです。

最後にご紹介するのはスライゴー・シンガーの代名詞キャシー・ジョーダンと仲間たち。おなじみシェイミー・オダウドとハーモニカのリック・エッピン。キャシーがダーヴィッシュ以外に参加しているユニット”Unwanted “
のゴキゲンな演奏を。シェイミーが大ファンな著名ギタリスト、ロリー・ギャラハーの曲です。故郷バリーシャノンで毎年開催されるロリーの追悼フェスにシェイミーは欠かさず参加しているそう。あえてギターをキャシーに託しているのが興味深い!ロリーの曲からみなさんご存知であろうリールにつながります。