ケルト音楽に影響を受けたJ-POP曲 前編

ライター:櫻井静

アイルランドやスコットランドなどの地域で生まれた「ケルト音楽」は、世界中の様々な音楽ジャンルに影響を与えています。

その音楽ジャンルの一つがJ-POP。決して数は多くはないものの、身近なJ-POPにもケルト音楽が取り入れられている素敵な曲があるんです。そこで、ケルト音楽に影響を受けたと思われるJ-POP曲を、ご紹介していきます。今回はその前編です。

ケルト音楽に影響を受けたJ-POP曲 後編

「Sleep Walking Orchestra」(BUMP OF CHICKEN)

「Sleep Walking Orchestra」(BUMP OF CHICKEN)
作曲:藤原基央

この楽曲は、2023年12月8日リリースされたばかりの楽曲です。TVアニメ『ダンジョン飯』のオープニング主題歌に使用されています。

冒頭から疾走感のあるケルト風の旋律が演奏され、テンポよく進んでいく「ケルト風バンプ」。

BUMP OF CHICKENは活動初期から、ジャンルを問わず多くのアーティストから音楽的に影響を受けていると言われています。その一つに、「ザ・ポーグス」というイギリスのバンドの存在をメンバーが語ったことがありました。「ザ・ポーグス」はパンクロックにケルト音楽を取り入れた「ケルティック・パンク」というジャンルにおいて、代表的なアーティストです。つまり、BUMP OF CHICKENの曲にケルト音楽らしさが見られるのは、ケルト音楽そのものから直接影響を受けたというより、「ザ・ポーグス」を通して影響された、と考えても良いかもしれません。

このように、世界中にケルト音楽を取り入れたアーティストがおり、そのアーティストに影響を受けたアーティストが、そしてまたその影響を受けたアーティストが・・・と、音楽が脈々と受け継がれていきます。

そして、経由して影響されても、薄まり切ってしまうことなく、しっかりと「その音楽らしさ」が残っているという点を考えても、「ケルト音楽」というジャンルがいかに音楽的に強い個性、エッセンスを持ったものなのか、改めて思い知らされます。

「Merry Christmas」(BUMP OF CHICKEN)

「Merry Christmas」(BUMP OF CHICKEN)
作曲:藤原基央

2013年リリース、アルバム「BUMP OF CHICKEN Ⅱ [2005-2010]より「Merry Christmas」はBUMP OF CHICKENファンの中では隠れた名曲と呼ばれている楽曲です。

アコースティックな民族音楽の中にも、バンプらしさをつかさどる藤原さんの特徴的なボーカルが寄り添うように存在していて、ほっとするような安心感のある世界観が楽しめます。

一般に、バンドが他の音楽ジャンルの要素を取り入れると、そのバンドらしさとのバランスが難しくなると思われますが、この曲では絶妙にそのどちらも両立し、ぶつかり合うことなくマッチしている点が聴きやすい理由であり、J-POPファンも、ケルト音楽ファンも楽しめる一曲となっています。

前奏では、耳を澄ますとずっと遠くからクリスマスらしい鈴やティンホイッスルの音が微かに聞こえてくる演出になっており、これから始まるクリスマスソングへの期待感を高めます。

曲は、アイルランドのダンス音楽「ジグ」のノリ(8分の6拍子)で終始進みます。

終盤、転調した後の間奏ではより本格的なインストゥルメンタル音楽が楽しめ、ティンホイッスルが縦横無尽に大活躍します。この部分だけを取り出してみても、ケルト音楽の一曲として成り立ちそうなほどに本格的な作りであり、ケルト音楽を意識的に取り入れたことが分かります。

「麦の唄」(中島みゆき)

「麦の唄」(中島みゆき)
作詞・作曲:中島みゆき

2014年リリース、中島みゆきさん44枚目のシングル「麦の唄」は、2014年度9月度NHK連続テレビ小説「マッサン」の主題歌としてヒットした曲なので、聴き覚えのある方も多いのではないでしょうか。

主人公「マッサン」はウイスキーの醸造に挑戦しようと、スコッチ・ウイスキーの本場であるスコットランドへ渡ります。そこで出会った現地女性と結婚し、日本に帰国後は夫婦でジャパニーズウイスキー作りに奮闘するという物語です。

このように、ドラマ自体がスコットランドにゆかりが深いストーリーのため、曲は全体を通してスコットランド風に作られています。今回ご紹介する中では一番本格的な「ケルト音楽に影響を受けたJ-POP曲」と言えるでしょう。

冒頭から大活躍する、バグパイプの力強い音色が特徴的な一曲です。バグパイプの他に、ケルト音楽の楽器としてアイリッシュハープも使用され、分厚いバックコーラスやストリングスと合わさり、壮大なサウンドになっています。

リズムは三連符のロッカバラード調になっており、ケルト音楽として聴いてみると、単純な四拍子ではなくやはりどこか8分の12拍子のジグを彷彿とさせます。ケルト音楽ってどんな感じの音楽?と思われる方にはまず初めに聴いていただきたい一曲です。

余談ですが、ドラマ「マッサン」作中に使われているサウンドトラックも、ティンホイッスルを多用したエアー調の曲や、バグパイプやフィドルが活躍するアップテンポのダンスチューンなど、ケルト音楽好きにはたまらないラインナップとなっていますので、気になる方はぜひ聴いてみてください。

「サーモン・ダンス」(中島みゆき)

「サーモン・ダンス」(中島みゆき)
作詞・作曲:中島みゆき 編曲:瀬尾一三

こちらも中島みゆきさんの作品から一曲。2005年リリースアルバム「転生(TEN-SEI)」より、「サーモン・ダンス」。日本語にすると「鮭の踊り」となります。J-POPではあまり見かけないような、一風変わった曲名ですね。2004年の舞台「夜会VOL13ー24時着0時発」のために作られた曲で、鮭が産卵のために海に戻ってくる「遡上」を歌っています。
 
前奏からジグを思わせるフィドルの細かい動きが印象的です。ギターのように聴こえる伴奏楽器はケルト音楽でよく使用されている「ブズーキ」。ギターよりも鋭い金属的な音色が、この曲の力強い雰囲気を際立てています。

また、楽器陣がケルト音楽調であるだけでなく、この曲ではボーカルにも少しアイリッシュっぽさが現れています。サビではボーカルが同じメロディで同じ歌詞を何度も繰り返す形になっています。

「生きて泳げ 涙は後ろに流せ 向かい湖の彼方の国で 生まれ直せ」

この歌詞が、クライマックスでは実に7回も続きます。J-POPでは通常あまり見られないこの繰り返しは、同じ旋律を何度も繰り返し演奏するアイリッシュ音楽のスタイルが影響していると思われます。

ちなみに、舞台上では中島みゆきさんがアイリッシュダンスを披露する場面もあったということです。

参考資料・引用元
  • 「サーモン・ダンス(BA.443)」中島みゆき研究所
  • 「マッサン」Wikipedia
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