ガリシアに残るケルトの心

ライター:茶谷春奈

Bos dias a todos! みなさんこんにちは!

ケルトの故郷、スペイン・ガリシア地方の伝統音楽を演奏している、茶谷春奈です。

今回は、かつてガリシアにいたケルト人について、現地で聞いたお話をシェアさせていただきます。

みなさんは「ケルト」という言葉を聞いたことがありますか?

「ケルト」とは、大昔、ヨーロッパで独自の文化を築いていたとある民族です。現代ではアイルランドやスコットランドなどが主にケルト文化圏と呼ばれ、バグパイプやハープなど、独特な楽器で演奏される音楽が「ケルト音楽」として知られています。

わたしは10年ほど前から「ケルト音楽」は知っていて、明るいメロディと、神秘的な雰囲気が好きでよく聴いていましたが、昨年ガリシアに行くまでは、まさかスペインにも「ケルト音楽」があるとは知りませんでした。

みなさんは、「スペイン」というとどのようなイメージがありますか?

わたしは、初めてスペインを訪れる前は、スペインといえば「サッカー」や「フラメンコ」、「闘牛」などのイメージが強かったので、太陽がギラギラと照りつける乾いた大地や、情熱的で気が強い人々を想像していました。

しかし、ガリシアを訪れ、まず初めに印象的だったのは、イメージしていたスペインっぽさがあまり感じられなかったことです。

ガリシアの気候は雨が多く、年中を通して涼しく、大地は一面緑に覆われています。そして人々は明るく陽気ではありますが、思っていたほど情熱的というよりは、どちらかというと素朴で控えめな方が多い印象でした。

そして、初めてガリシア音楽に触れたとき、フラメンコとはまた全然違い、まさにケルト音楽そのものだったので、少し驚き、好きだったケルト音楽にこんなところで出逢えるなんて!と、嬉しかったのを覚えています。

しばらくして、現地の友人から、「ここガリシア地方は大昔、ケルト民族が住んでいたところだから、スペインの他の地域とは言語や音楽、お祭りや人々の習慣などが全然違うんだよ。」と教えてもらったときに、「なるほど!」と思いました。

ガリシアは、今ではスペインの一部とされていますが、元々は独立した国であり、スペインの他の地方とは民族的なルーツが違うのです。ちなみに、ガリシアはスペインの北西部ですが、スペインの中部・南部では昔はアラブ系・イスラム教徒の人々が住んでいたそうです。ローマ軍の侵攻により、それらの地域が統一され、キリスト教に改宗され、今ではスペインという一つの国になっています。

現地の人々から聞いた話ですが、ケルト人は、紀元前からガリシアに住んでいたそうです。しかし、ガリシアはとても豊かな土地なので、度々、色んな民族に侵略され、次第にケルト人は衰退し、最後にはローマ軍に滅ぼされてしまったそうです。

しかし、ケルトの痕跡は、遺跡や伝承など、今もさまざまな形でガリシアに残されています。たとえば、「カストロ」というケルトの集落跡や、「ドルメン」という巨石遺跡、ケルトのシンボルマークなどはいたるところで見られます。

ガリシア音楽で演奏される「ガイタ」というバグパイプも、ケルト音楽ならではの楽器です。ガリシアの人々と話すと、皆、ケルト人にはとても親しみを持っているように感じました。

一方で、ケルト人が持っていた知恵や技術などの中には、今では完全に失われてしまったものもあります。

たとえば、ご高齢の方たちから教えてもらった話では、ケルト人は、自然とともに生きていたので、薬草の知識が豊富で、大昔には 「魔女」 と呼ばれる人々が各村に存在し、薬草やまじないなどで病気を治したり、トラブルを解決したりしていたそうです。

また、小川のほとりには、今でも「ムリ─ニョ」と呼ばれる石の小屋がたくさん残っているのですが、その中には巨大な石臼があり、昔は小川の水が流れる力だけで自動で動いていて、人々が粉を挽くのに利用されていたそうです。モーターも使わず木や石を組み合わせただけでそのような自動で動く装置が作られていたことにはとても驚きました。

しかし今では、「魔女」は一人残らずいなくなってしまい、「ムリ─ニョ」の石臼も使われなくなり、もう長い間止まったままだそうです。

最後に、教会のミサで決まって演奏される「ガリシア国歌」という曲があるのですが、ガリシアとケルトとの深いかかわりを感じる歌なので、わたし自身で日本語に訳した歌詞を紹介させていただきます。

〜ガリシア国歌〜

ガリシアの人々は、透明のイナズマに向かって何をうわさしているのだろう。

緑の大地で、静かな月明かりに照らされながら。

ハープのように音楽を奏でる大きな松の木々たちは、何を歌っているのだろう。よい指揮者のもと、繰り返し、揺れながら。

緑の大地よ、わたしたちを導いてくれる夜空の星々よ、ケルトの砦と勇敢な土地の境界線で、あなたたちが辿った道を決して忘れない。

ケルトの王・ブレオガンの地で、目覚めよ、ガリシア。

豊かで優しいガリシア人よ、わたしたちの呼びかけが聞こえる人たち。

文化を持たない物知らずには、聞こえないだろう。

傷ついて暗闇に閉じこもっている人たちには、聞こえないだろう。

そのときが来た。昔の詩人たちがずっと夢見てきた、ついに自由のときが来た。

意のままに、どこであろうと、我々の声は、

偉大なるケルトの王・ブレオガンの救済を宣言する。”

いかがでしたか。

ケルト人がガリシアにいたことは今ではもう昔話になっていますが、ガリシアの音楽に触れるたび、わたしは、ガリシアの人々の心には、今でもケルトの魂が息づいているように感じます。