ヴァイオリン弾きのことは普通「ヴァイオリニスト」、ハープ弾きは「ハーピスト」と呼ぶのが一般的だけど、アイリッシュを演奏するとそれぞれ「フィドラー」、「ハーパー」と呼び方が変わるんです。
そう、「名詞+ist」が、アイルランド色に染まると「名詞+er」になっちゃうわけです。
そうなると、「フルート吹き=フルーティスト」という常識もどこかへ放り投げ、ケルトの国ではしばしば「フルーター」と呼ばれるんだそう。
楽器演奏家という雰囲気から、原付き(スクーター)みたいな響きに変貌したわけだけれど、本当にこう呼ぶ人はたくさんいるんだとか。
その区別は(少なくとも昔は)楽譜の読めるかどうかで区別されていたのだそうです。
今では、ケルトの伝統音楽も楽譜を使って覚える時代だし、そんなカテゴライズ法には反対だ!
…と主張したいけれど、ここはひとつ、昔の時代にいるつもりで考えてみましょう。
クラシックは楽譜を用いないと伝えきれない曲ばかりだし、例えそんなものを丸二日がかりで耳コピしたところで誰も褒めてくれませんでした。
それより、「おい、楽譜も読まずに曲を覚えるなんて、横着だねチミは」とバカにされたかもしれません。
だから、1日の仕事を終えて、みんなでお酒を飲みながら耳にしてるうちに覚えておける短いフレーズの曲の方が、世紀の大発明「活版印刷」をフル活用して後世に残された楽譜よりも、アイルランドでは価値が高かったのではないでしょうか。
そもそも(当時)世界の「西の端っこ国」に最新技術が到達するのは、みなさんの想像通りずいぶん遅かったのです。
そんなわけで、大陸の方の「クラシック音楽」をたしなむブルジョワな人たちからは、「~er」は少し悪意を含んだ(まだ楽譜を知らないんザマスか?的な)言い方で呼ばれ、逆にケルトっ子からすりゃあ「てやんでぃ、クラシックがなんぼのもんじゃい!」と、「~ist」を鼻持ちならない~ぐらいの意味を込めて呼んでいたのかもしれませんね。