【ケルトの笛奏者の紹介】ショセ・リス


出典 Foto Nando Iglesias para O Cantar dos Frautares

序文

2018年10月、ショセ・リスの待望のフルートアルバムがリリースとなった。

ショセ・リスといえば、日本では無印良品のBGM 19 Galiciaに参加している他、Anxo LorenzoやRiobó、Entre Trastes、Arxe、Lizgairoなど、40を超えるプロジェクトに携わってきたミュージシャンだが、ガリシアを代表するフルーティストではありながらも、これまでの録音作品はブズーキやギターなどの弦楽器がほとんどだった。

10年以上前からフルート作品を作りたいと考えていたそうだが、多忙を極めるスケジュール故、なかなか録音に踏み出せずにいたという。そんな中、数年前からアイルランドのコーク近郊で開催されるフルート・ミーティングに参加した時に、主催者でフルート職人のハミー・ハミルトンから、「是非ガリシア音楽をフルートでやってほしい」と求められ、決心がついたらしい。

CDを開封した瞬間から、ものすごい熱量のフルート愛が伝わってくる。18世紀のトラヴェルソから現代の製作家による新作に至るまで、スペインの中で最も貴重なコレクションを含む計12本のフルートが使用されているのだが、ブックレットには各トラックで使用されたフルートとヘッドキャップの写真が掲載されており、フルートファンとしては音色を聴き比べるのも楽しい。ディスクにもヘッドキャップが印刷されているし、ついでに言うと写真を撮影したカメラマンもプロのフルーティストだ。

本作の画期的な点は、まずガリシア音楽を扱った初のフルート作品であるということ。ガリシアにはレキンタと呼ばれる笛の伝統が今でも残っているが、主役はあくまでもガイタであり、これまでフォーク音楽として演奏される機会はほとんどなかった。本作はレキンタの伝統的な演奏スタイルを取り入れつつも、様々な楽器のレパートリーをフルートに「翻訳」して演奏するフォーク音楽のスタイルを確立した作品といえる。

ガリシア音楽といえば、ガイタと呼ばれるバグパイプが主役。伝統音楽やフォーク音楽では、ムイニェイラ (6/8拍子) やホタ (3/4拍子) といったガイタで演奏されるダンス曲が中心となることが多いのだが、本作のレパートリーはこれらにとどまらず、今まで笛ではあまり演奏されることのなかったレパートリーを積極的に取り入れている。タイトルのO Cantar dos Frautaresとはヘブライ聖書の「雅歌」を意味するガリシア語O Cantar dos Cantaresをもじって「歌」に当たる部分を「フルート」に置き換えたものだが、文字通りフルートで歌うことを意識した作品といえるだろう。


O Cantar Dos Frautares / Xosé Liz

CD レビュー

[1]のDanza de Vilanova / Marcha Procesional do Corpus de Pontevedrは、ガリシア西部ポンテベドラ県に伝わるダンス曲と、キリストの聖体行列で古くから演奏されてきた定番の行進曲だ。

[2]のGreladaは、カルロス・ヌニェスの「シーエスの風」の演奏で有名になったムイニェイラ (6/8拍子) Muiñeira da Greladaを基にした曲だが、7拍子のリズムや異なるスケールを用い、本人曰く「バルカニック」なアレンジに仕上がっている。これは自身が教鞭を取る伝統音楽院で、他のリズムやスケールを使ってアレンジするレッスンを担当した時にできたものだそうだ。この曲については、Blanca & ChuchiやAtlantic Folk Trioで活躍するブルゴス出身のギタリストChuchi、セゴビア出身の若手フィドラーPaula Gómez、ガリシアのパーカッションの常連Roi Adrioを迎えてのPVが公開されており、全ての楽器を自身で録音したCD版の演奏よりもさらに複雑なリズム構成となっている

[3]のFandango da Vellaはポンテベドラに古くから伝わる定番のファンダンゴ (3/4拍子)。この曲もカルロス・ヌニェスが出演した映画「J:ビヨンド・フラメンコ」の中で演奏されていることで有名。元々はミクソリディアンのチャンターを使ったガイタ (バグパイプ) で演奏されていた曲だが、ここでは現代のチャンターを使い、ガイタのメロディのオクターブ上をレキンタと呼ばれる笛で演奏する伝統的な笛のスタイルを採用している。普段プロとしては全くガイタを演奏していない彼だが、元パイプバンド出身だけあって、装飾音を多用するガリシア南部リアス・バイシャスのスタイルで見事に演奏している。

[4]のPainter Gas Reel[5]のGlencoe March / William Davis Marchは、マイケル・グリンターのフルートによるアイリッシュリールの形式を用いたオリジナル曲と、スコットランドのマーチのセット。

[6]のJota Portuguesa / Jota del Guijarでは、ガリシア州外のホタ (3/4拍子) を2曲組み合わせたもの。1曲目は本作のマスタリングを担当しているアコーディオン/フィドル奏者のCarlos Quintáがポルトガルで収集したホタで、2曲目はカスティーリャ地方セゴビア近郊の村に伝わるもの。恐らくドゥルサイナと呼ばれるチャルメラのようなオーボエ族の伝統楽器で演奏される曲だろう。常にチャンターに空気を送り続けるバグパイプでは演奏しにくい細かな連続音を、タンギングを用いて演奏しているのが特徴的だ。

[7]のO Refaixoは、ガリシアの伝統衣装にまつわる伝統曲。これもPVが公開されている。

[8]のHoróはブルガリアのトラッド。

[9]のEl Candilは、ポルトガルの伝統音楽の影響を強く受けるスペインのエストレマドゥーラ地方のダンス曲。スペイン語でcandilとはランプの意味だが、この地方では「人々の生活を明るくする踊り」として親しまれている。

[10]のXota de Montrove / Muiñeira de Vilarmideは、ガリシアのセッションでは定番のホタとムイニェイラ。1曲目のMontroveは歌を付けたフォリアーダとして演奏されることも多いのだが、フルートで上手く歌い上げている。2曲目は本作では意外にも唯一のムイニェイラで、ガリシア東部フォンサグラダ近郊のビラルミデ村に伝わるレパートリー。この地域は1オクターブ半近くの音域を用いたガイタの演奏スタイルが特徴的で、ガイタで高音域の演奏は決して容易ではないのだが、フルートやフィドルなどの楽器では難無く演奏できることから、最近は都市部のアコースティックなセッションでよく演奏される。

[11]のPasacorredoiras do Condado / De Mostad a Millaresはパサコレドイラス (2/4拍子) のセット。1曲目は伝統音楽を演奏し始めるきっかけになったというミジャドイロ (Milladoiro) の演奏で有名。2曲目はSondeseuのTrastempoにも収録されているが、彼の定番のレパートリーだ。

[12]のCanto de Afiador / Romance de Herveiraはガリシアの伝統曲。Canto de Afiadorとは、刃物研ぎ屋の歌のこと。現代ではほとんど見られなくなったが、ガリシアでは刃物研ぎ屋が街を歩いて回る時、人々の注目を集めるためにパンフルートを吹いて回る風習が見られた。最も有名なのは、アメリカの民俗音楽収集家アラン・ローマックスが収集したもので、後にこれを聴いたマイルス・デイビスは『スケッチ・オブ・スペイン』でThe Pan Piperを録音しているのだが、実際にフルートで演奏する試みはこれまでにないものだ。リコーダーではカルロス・ヌニェスの録音があるものの、リコーダーの甘い音色とはやはり印象が大きく異なる。

このセットで使用されているフルートは、1730年頃にイングランドのJohn Schuchartが製作した象牙のトラヴェルソ。ガリシアで最も有名なガイタメーカーのヒル兄弟のコレクションだそうだが、ショセ曰く「象牙級の重鎮へのオマージュ」として、2曲目ではアントン・コラル (伝統楽器製作家、演奏家。ビーゴに楽器工房と伝統音楽学校を設立し、多くの製作家を育てただけでなく、カルロス・ヌニェスなどの多くの優れた演奏家を育てたことから、ガリシアでは最も重要な人物と見なされている) がハーディガーディのために作曲したロマンセを演奏している。

[13]のOhrwurm / Elkundaは日本でもお馴染みのポルスカのセット。

[14]のMarexadaはオリジナル曲だが、アントン・コラルの息子、カルロス・コラルが伝統的なレキンタを意識して製作したという新作のD管フルートを用いている。音色もエッジの立った一般的なアイリッシュフルートよりは、レキンタの祖先であるトラヴェルソを意識したものとなっている。


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