ライター:field 洲崎一彦
前回は、長々と個人的なブズーキの話をだらだら書いてしまいましたね。いやはや、書いているうちに色々と細かいコトを思い出してしまってどんどん長くなってしまいました。めげずに読んでくれた方々に深く感謝いたします。
さて、今回も前回の続きです。まず、私のブズーキ人生がどんな風に始まったか、が前回までのお話でした。では、これから、この変なクセのある変態ブズーキを手に入れて、これから私のブズーキ生活がどうなって行くのかですね。
前回の要点としては、fieldセッションの黎明期に実質的にセッションホスト役だったIさんの爆音ギターに対抗するというただ1点の目的にために、この中高音だけが前に飛んでいく変態ブズーキが誕生したということでした。そしてこの後どうなって行くのかですが、この肝心のIさんはお仕事の都合もあってだんだんfieldセッションから足が遠のくようになって行くのですね。さて、こうなるとどうなるか、、、私はセッションの日々の中でアレ?アレ?という違和感を覚える事が増えていくのです。
fieldセッションはオープンセッションなので、ほぼいつも決まってやって来るというメンバーが定着しない時期が定期的にやって来ます。つまり、毎回参加メンバーが違う。メンバーの演奏レベルもまちまちだし、こういう時期は往々にして初心者の方々の率が増えるわけです。毎回違うサウンドになってしまう中で仕切り役のIさんも居ないとなると、私の変態ブズーキは伴奏というより、はっきりくっきり浮き上がってしまう。
今なら冷静にこのような分析も出来るのですが、その当時は、なんか最近のセッションは音がギクシャクして面白くないなあとぼんやり思っているばかりで、何が起こっているのかもよく分からず不満ばかりがつのってどうにもなりません。
そんな、2003年の秋口だったかな。突然、アイルランドの大物フィドラーがfieldセッションにやってきた!元アルタンのフィドラー、ポール・オショネシーさん!
とにかくこの人、顔がごっつい怖い笑(ここポイントです)。よし、これは凄いぞ!ベンキョーベンキョーと意気込んで私はブズーキを抱えて意気揚々と彼の横に陣取ってセッションに参加します。
セッションが始まります。私はおもむろにブズーキを弾きます。ジャラーンと1発弾いた瞬間、怖い顔のポールさんがギロっとこっちをにらむのです。そりゃあもう萎縮するじゃないですか。相手はCDでしか聴いたことがない大物フィドラーで、なおかつお顔がめちゃ怖い!なので、私はびびりまくりながらなるべく小さい音でジャラーン、ジャラーンとやるしかない。
そこで、びっくりするような感覚に襲われたのです。彼の野太いフィドルの音がまるで突き刺すように飛んでくる!それも、例えば、クルマを運転していて後ろから乱暴運転のクルマにアオられるような感じ。こちらのブズーキを弾く手を止めたら追突されてしまうような切迫感。なんじゃこれは!アイリッシュを伴奏していてこんな感覚に陥るのは全くもって初めてじゃ!
クルマの運転時ならこんな時どうしますか?隣に車線があればそっちに移動して後ろのクルマに先に行ってもらうのですが、隣に車線が無いとなれば、、、自分もアクセルを踏むしかないでしょう?そうなんですよ、アクセル踏むしかないんです。というわけで、私の右手は隣にIさんの爆音ギターが居た頃のようにギンギンに力が入るのでした。それしか助かる道がない!
しかしですね。それでもその乱暴グルマは後ろにピタッと張り付いてアオってくるのです。こちらがスピードを上げると向こうもスピードを上げるアレです。怖い怖い、めっちゃ怖い!ここで私は咄嗟に思うのです。アクセルを踏んだだけではダメなんや!と。こんな事があるんや!と。とにかく、追突されないように冷や汗かきながら試行錯誤の連続連続。。。。
そのうちに、私は右手のピックを引っかけて落としてしまった。慌ててピックを拾って再び弾き始めようとするのですが。これが。。。。入れない。。。。この感じ。言葉でうまく説明するのすごく難しいのですが、、、私を後ろからアオっていたクルマはもうすでにはるか彼方に走り去ってしまった、というような感覚。結局、この時のセットは終わるまで私のブズーキは入れないままになってしまいます。
2セット目が始まりました。よし、後ろからアオってくるというのは判っているのだから、スタートダッシュで集中すればなんとかなるかもしれないと浅知恵を働かせます。確かにさっきは初っぱなから萎縮してしまって腰が引けていた。しかし、そんな話ではなかった。
この時ほど、音楽におけるテンポというかこの場合は速さと言った方がいいかもしれないのですが、まあ俗に言えばテンポですね。自分の持っていたテンポというもののイメージが根底から崩れるのを感じたのです。つまり、速さと言う感覚はそのままテンポだと思っていたのがそうではなかった!と。何故かというと、この時スタートダッシュに集中した私は一瞬でポールさんのクルマを追い越してしまったのです。つまり、テンポがポールさんより早くなった。するとどうなるのか。うーん。何と表現したらいいのか難しいのですが、あえてクルマで例えると、途端にまっすぐ走れなくなってふらついてしまう。
なので、咄嗟にアクセルをゆるめるわけですね。そうすると、すぐにまた後ろからぐいぐい押される。では、今度はポールさんのフィドルの音をよく聞いてこれに集中してみようと。つまり、俗に言う相手の音をよく聴きましょうというやつですね。これも無駄な努力でした。やはり、ぐんぐん後ろからアオられる状態に戻ってしまう。何をどうやっても何ともならないのです。
さて、この、何かの罰ゲームのような冷や汗かきまくりのセッション。2時間余り続いてようやく終わりが見えてきた頃です。一瞬だけポールさんと並んで走っているかのような感覚を覚えたのです。この一瞬の感じ。今までまったく感じたことが無い未知の感覚でした。一瞬ふわっと身体が浮いたようになり、ピッキングしている右手が自動的に動かされているような感覚。今まで感じたことがないような気持ち良さ!
何でそうなったのかは、今となっては何を言ってもすべて後付けの理屈になってしまうのでここでは多くを語りません。が、何よりも、私はそれまで、伴奏というものはあくまでメロディあっての引き立て役、または、メロディが無いと手も足も出ない存在だと思っていました。だからこそ、Iさんの爆音ギターと一緒に爆音伴奏していた時、その攻撃性を楽しみながらも、どこかに、メロディの人達ごめんね、、、みたいな気持ちが少しだけチリチリと湧き上がって来ていたものです。
が、このポールさんとのセッションで、伴奏とメロディはまったくの同等である!という確信を得たのでした。それが無いとこのふわっと浮いたような並んで走る気持ち良さは感じ得ないと。つまり、この絶対的同等というイメージが無い限り、私は永遠にポールさんに後ろから煽られて脂汗を流し続けなければならなかったという一種の被恐喝体験とでも申しますか。。。
あの気持ち良さを一瞬でも体験した以上、この先の私はどうしても同じ感覚を探し求める姿勢にならざるを得ません。その為には、あそこで、ポールさんのフィドルと私のブズーキの間でどんな事が起こっていたのかを知らなければならないのですが、もちろん、あのセッションの録音等はどこにも残っていません。ということは、私があの極めて個人的な感覚を記憶して、ひとりで悶々と考え込むしかやりようがないということです。
私の記憶としては、まずは、ポールさんのフィドルのあのアオり運転のような感じから始まったのですから、ひとつにはメロディの奏で方の何かが違うという事。そして、オカマ掘られないように必死に食い下がる私があのセッションの終盤にどんな風にして並んで走ることが出来たのか、これも自分で意識してやったことではないので自分の記憶から探らなければならない。という2重の謎があるわけです。
2つの要素があって、とある特殊な状態になる為に、どちらに原因があるのかはっきりしないという事態。つまり、私さえこうすればああなるというのか。相手もこうしなければならない何かがあるのかが判らない。。。。
ここからの私のアイリッシュ人生は、この謎に取り組む迷路というか、いばらの道というか、ここから途方もない長い旅が始まるのです。それは、とんでもない回り道、寄り道、振り出しに戻るを繰り返す長い長い旅路になるのでした。
そして、この旅は今も続いています。ポールさんのセッションからは随分長い時間が経ちました。その時の流れの中で、様々な試行錯誤があり、ポールさんのフィドルに感じたものと似た感覚を覚えたことも何度かありました。そして、あ、これか!と判ったような気持ちになることも多々ありましたが、その都度、やっぱり違った。。。。というような事の繰り返しを続けています。
さて、ここからこの続きに入ってしまうと、また途方もなく長くなってしまいそうなので、続きはまたの機会にします。
私もトシもとって疲れても来ましたし、何かもうどっか適当な所で居直ってしまおうかというような悪魔のささやきにも負けそうにはなっている今日この頃なのですが笑。(す)