インタビュアー:天野朋美
【私とケルト音楽】ロックギタリスト/音楽プロデューサー 平井光一さん 前編
様々な分野で活躍している方をゲストにお招きし、ケルトにまつわるお話を伺う「私とケルト音楽」。
第三回はロックバンドPANTA&HALのギタリストであり、レベッカやRaphaelの音楽プロデューサーとして日本におけるメジャー音楽界の中心で活躍された平井光一(ひらいこういち)さんです。
ロックミュージックを軸に「メジャー音楽の中のケルト」をテーマに語っていただきました。
どうぞお楽しみください。
インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
ケルト音楽との出会い
――日本におけるメジャー音楽界の中心で活躍してきた平井光一さんですが、ケルト音楽との出会いを教えてください。
平井:ケルトという言葉自体は知らなかったのですが、学生の時に教科書に載っていた「蛍の光」や「庭の千草」を知り、初めてアイルランドやスコットランド民謡というものを意識しました。
ちなみに僕らが「蛍の光」だと思っている閉店の時に流れる音楽は、原曲の「オールド・ラング・サイン」を3拍子にアレンジにした「別れのワルツ」という曲なんですよね。
ロックミュージックの中でのケルトの出会いは、ビートルズが「マイ・ボニー」をカバーして演奏していたのを聴いたのが最初です。
その後にブリティッシュ・ フォークを聴き始めて、はっきりとケルトを意識して音楽を聴いたのはレッド・ツェッペリンです。
当時ツェッペリンが好きだった人たちはハードロックサウンドを期待していることが大半でしたが、僕はケルトサウンドを取り入れている所に魅力を感じました。
次のケルトとの出会いはロードオブダンスです。
これはアイリッシュダンスとアイルランド伝統音楽が魅力の舞台作品で、もともとリバーダンスのプロデューサーで主役だったマイケル・フラットレイが権利を取られてしまったため、新たに作った作品です。
現在は和解しているようですね。
ロードオブダンスを知ったきっかけは、ロサンゼルスのビバリーセンターに買い物に行った時に、BOSEのショールームで映像が流れていたのを聴いてDVDを買いました。
妖精がティンホイッスルを吹き、ダンスで悪魔との戦いを表現するなどダークな部分や、綺麗な女性が歌う明るいイメージの場面など、ケルトの魅力が明確に表れている作品だと思います。
洋楽におけるケルト音楽
――では早速、メジャー音楽界にみられるケルトについて教えてください。
洋楽ではいかがでしょうか?
平井:洋楽の中でケルトを感じるミュージシャンは多くいます。
僕のケルト音楽との出会いでも話しましたが、ジョンレノンやポールマッカートニーをはじめ、世界的に有名なギタリストであるジェフベックの音楽からケルトの雰囲気を感じることが出来ます。
ジェフベックはジャズやブルースなど様々なジャンルを演奏できるギタリストと一般的に認識されていますが、ケルトにかなり影響を受けていて、ザ・コアーズのフィドラーであるシャロン・コアーズと共演し「ウーマン・オブ・アイルランド」という曲を演奏しています。
また、レッド・ツェッペリンはマンドリンを使ってライブをすることもあり、天国への階段が入っている4枚目でよりケルト色が明確になりましたし、ブルース・ロックギタリストのゲイリー・ムーアは、若い時はかなりケルト色が強い音楽を演奏していました。
彼は本田美奈子に曲を書くなど日本とも関りがありますね。
彼の旋律やコード進行はまさにケルトです。
日本人の音楽ではルーツが見えないものがほとんどですが洋楽のアーティストは違います。
例えばマイケル・ジャクソンは小さい頃から歌っているので、R&B以外の物を歌っても、R&Bの人が歌ったポップスになる。
コアーズのように小さい頃からずっと家族で伝統音楽を演奏しているなど、ルーツがケルトの人は他の音楽をやってもケルトになるんです。
音楽は必ずメッセージや時代背景が色濃く出ます。
ケルトだけをやると民族音楽になるから、ロックや他の音楽の力を借りて、さらに伝わりやすくしている面もあると思います。
U2はグランジサウンドの中にケルト、ケイトブッシュはアートの中にケルトが垣間見えます。
ケイトブッシュの嵐が丘のコード進行がすごく独特で、CからB♭に行くなど普通ではいかない流れを行くところがポイントですね。
エリック・クラプトンのクリームのホワイトルームでも、ケルトのコードの流れを感じます。
ロックミュージックの中ではっとさせられるケルトの旋律
――ずばり!ケルト音楽の魅力はどんな所ですか?
平井:ロックギタリストの観点から言うと、単純に「かっこいい」という点です。
コード進行、バウロンが刻むリズム、バグパイプのドローンの重低音…。
特にシンプルなロックの中にケルトの要素が入るとフックになります。
それが妖精や神話と相まって強さと癒しが生まれ、不思議なコード進行がとても魅力的に感じるのです。
それに対して、ジャズやフラメンコにはもっと違う面白さがあります。
複雑だったり高度だったり、より難しい事をやろうとする技術的な部分、コード分析、瞬時に判断して演奏するインプロビゼーション(即興)を大事にする音楽にはそういう面白さがあります。
ロックはとてもシンプルで思いをまっすぐに伝えるメッセージソングなので、かっこいいと感じることはとても重要な事です。
魅力の秘密はコード進行とスケール
――なるほど…もう少し詳しく教えてください!
平井:ケルト音楽の独特な魅力はスケールとコード進行の中にあると考えます。
ケルト音楽のスケールは、インドのラーガのカマージというスケールと全く同じです。
昔ケルト民族は地中海など広い地域に住んでいて、シルクロードを通って楽器が伝わったと言われています。
シルクロードの始まりは中国なので、もっと掘り下げていくと中国かもしれないですが。
ドローンはインドのシタールの低音がずっとなっている考え方で、あのスタイルはインドから来ています。
イスラムのコーランも、フラメンコも近くて、その音階はラーガから来ているんじゃないかと考えます。
日本の雅楽の笙(しょう)という楽器も四度積みの音と言って、すごく似ています。
ドローンとメロディが一緒に奏でられているのがバグパイプですね。
ポイントはセブンスの音にあります。
バグパイプの音を出す時、空気を入れる時に一音下から上がっていくのですが、それが独特の音になっています。
セブンスはブルースにも多く使われているが、それは明らかに使い方が違っている。
また、ケルトの匂いはコード進行でも見られます。
少し専門的な話になりますが、EmのときにAmじゃなくてAを使うことや、sus4とadd9sがポイントだったり、和音の使い方がドローンから来てるんだと思うんだけど、何かの音が鳴りっぱなしになっていると、しっくりくるコードよりも広がりが出ます。
通常ではあまりないコード進行ですが、楽器の特性の影響によるものだと思います。
それがロックのスリーコードやブルースばかり聞いている耳の中で聞くと、とても新鮮でかっこいいと感じるのです。(つづく)
ロックギタリストであり音楽プロデューサーとして活躍する平井光一さんをゲストにお迎えした第三回「私とケルト音楽」。
次回も引き続き平井さんをゲストに、日本のメジャー音楽界におけるケルト音楽についてのお話をお届けします。
【Profile】
- ゲスト:平井光一(ひらいこういち)
- レベッカやRaphaelのプロデュースを手掛ける。PANTA&HAL、中村雅俊、岩崎良美、田中裕子等にギタリストとして参加。
- Studio25
- インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
- ケルトを愛するシンガーソングライター、ティンホイッスル奏者。令和元年やまなし大使就任。
- https://twitter.com/ToMu_1234