【映画レビュー】「サンドラの小さな家」から読み解く、人生を好転させる3つの秘訣

ライター:hatao

アイルランドの首都ダブリンが舞台の映画「サンドラの小さな家」のオンライン試写会に招待いただき、鑑賞した。

トレーラーによると、DV夫から逃げた妻子が自宅をセルフビルドして人生を再建する映画ということだ。家庭内暴力、別居後の子供の親権や面会権といった問題、都市の住宅不足や住宅価格の高騰といった現代社会の抱える問題を背景に、苦境のシングルマザーが仲間を見つけ自立するまでを描く希望あふれる内容となっている。

主人公のサンドラはどこにでもいそうな女性だ。それもかなり恵まれていないほうの。掃除婦やパブのホールスタッフといった低収入で不安定なアルバイトをし、特技や資格や趣味もなし。そんな彼女がオシャレやグルメや旅行をインスタに投稿する「キラキラ女子」であるはずもなく、しかも友達もいない、パッとしない女性として登場する。

そんなサンドラは、DV夫から逃げて住処を失い自分の家を建てることをひらめいたストーリー序盤では、お金も土地もない、住宅建設の技術・知識もない、おまけに手伝ってくれる人もいないという徹底的にナイナイづくしの状態からスタートする。

この話はどこの国にでもいそうなシングルマザーが主人公でありながら、実はみじめなシンデレラが王子様と結婚するような、韓国ドラマも顔負けの大どんでん返しの展開だ。誰もがサンドラのような幸運に恵まれるとは思えない。だって、サンドラが家を手にしたのは、宝くじに当たったような幸運があったから。だから同じような境遇の女性がこの物語に感情移入できるかどうか、僕にはわからない。しかし僕はサンドラから人生を切り拓くための三つのヒントを読み取った。

一つ目は決意そして行動だ。「ドン底」のサンドラの足元を見て夫は復縁を迫るのだが、サンドラには前進するしかない。なぜなら夫との地獄のような暮らしには絶対に戻りたくないからだ。だからサンドラは夫の元には戻らず自立することを「決意した」。そして自立のために家を建てるという手段を考え、「行動に移した」。

サンドラは確かに幸運な女性だが、幸運やチャンスは誰にでも訪れるわけではない。決意をして行動が伴ったからこそ、サンドラには幸運やチャンスが訪れたのである。苦境にあっても他責思考に陥り運命を変えようとしない人と、苦境をバネに運命を変えてやろうと戦うことを選ぶ人。チャンスの女神が応援したくなるのがどちらかは、考えるまでもないだろう。

二つ目は、自分から心を開くことだ。映画では夫から逃げる以前のサンドラは描かれていなかったが、おそらく自分の殻の中に閉じこもる孤独な女性だったのだろう。なぜなら家を建てることを決意したとき、サンドラには友達が一人もいなかったからだ。ほとんど会話をしたこともないママ友に助けを求めるほどに。しかしサンドラは目的を共に達成できそうな仲間を自分から見つけていった。人を信じるのも信じないのも自分次第である。サンドラが自分から心を開いたから、周りの人々の反応が変わったのである。

三つ目は、人と助け合うことだ。作中ではアイルランド語の「メハル」というキーワードが登場する。アイルランドに伝わる助け合いの精神のことだ。長年イギリスの圧政に苦しんだアイルランド人は、お互いに助け合うことで苦難を乗り越えたのだろう。

友達もいないサンドラを助けたのは、よぼよぼの老婆、しょぼくれた大工、障害児の(ように描かれた)大工の息子、フリーター、黒人女性といった社会のマイノリティたちだった。彼らは自立しようとするサンドラを無償で助けたのだ。「助け合い」というからにはサンドラは彼らに何かを提供したのかというと、共同でプロジェクトを達成させるやりがい、利害を超えて人々が集まれるコミュニティという具体的なものもあるが、誰かの役に立ち感謝されることそのものが喜びなのだと思う。

良い映画というのはたくさんのメッセージ性を秘めている。サンドラと同じ状況の女性には勇気を貰えるだろうし、性別も境遇も全く異なる僕のように成功哲学を読み取る人もいる。あなたがどんなメッセージを受け取るのか、それはぜひ劇場でじかに体験してほしい。

『サンドラの小さな家』

4月2日(金)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020

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監督:フィリダ・ロイド『マンマ・ミーア!』、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
共同脚本:クレア・ダン、マルコム・キャンベル『リチャードの秘密』
出演:クレア・ダン
ハリエット・ウォルター『つぐない』
コンリース・ヒル「ゲーム・オブ・スローンズ」
2020年/アイルランド・イギリス/英語/97min/スコープ/カラー/5.1ch/原題:herself/日本語字幕:髙内朝子
提供:ニューセレクト、アスミック・エース、ロングライド   配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/herself/