ライター:hatao
コロナ禍で対面での合奏がしにくい昨今。特に飲食店で身を寄せ合ってビールを飲み談笑しつつ演奏を楽しむアイリッシュ・セッションは、最も敬遠されるジャンルのひとつかもしれません。管楽器の飛沫の問題もあります。
そのような世情から、対面レッスンをZoomやSkypeといった通信サービスを利用したオンライン・レッスンに切り替える音楽教師や生徒も多いようです。しかし、ここで問題になるのは遅延(タイムラグ)。
ZoomやSkypeは会話を前提としたツールです。通常の会話であれば、相手が話し終えてから話しますので、遅延があっても気にはなりません。しかし、音楽では複数の奏者が同時に発音しなくては合奏が成立しません。回線などを工夫して、どんなに遅延を減らそうとしても、ごくわずかなズレが合奏にとっては命取りになってしまいます。そのため、片方はマイクをミュートにして自分の音が相手に聴こえないようにして合奏するなど、本当の意味で合奏は不可能でした。
そんなコロナ禍の音楽業界を予想していたかのような、画期的なサービスが登場しました。Yamahaが開発したSYNCROOM(シンクルーム)は、無料のアプリを利用して合奏を楽しむためのサービスで、PC、iOSで利用することができます。SYNCROOMでは、NETDUETTO(ネットデュエット)という独自開発の技術により遅延をほぼ無くすことに成功しました。どの程度使えるサービスなのでしょうか? 実際に体験してみました。
SYNCROOMの初め方
SYNCROOMを始めるには、環境を整える必要があります。
1.高速インターネット
光回線であることはもちろんですが、Wifiでは速度が不十分なため、モデムからの有線インターネットを利用する必要があります。私はMacBookユーザーなのでThunderboltという接続方法によりケーブルをPCに直に挿します。LANケーブルと、LANケーブルをThunderboltに変換するためのアダプターを購入する必要があります。
2.オーディオインターフェース
マイクから音を拾ってPCに送るための装置です。私は友人から、お古のM-Audio製インターフェイスを購入しました。高級な機材である必要はないと思います。
3.マイクとケーブル
自分の音を収音するためのマイク、オーディオインターフェースとマイクとをつなぐマイクケーブルが必要です。スマホに接続するようなミニジャックのマイクではなく、ライブハウスなどで使うような、いわゆる「3ピン」のXLR端子のマイクを購入してください。遊びで使う程度であれば、高級なマイクを買う必要はありません。
4.ヘッドホン
PCのスピーカーから音を出すと、その音をまたマイクが拾って、それがPCから出て…とハウリングを起こしてしまいます。ですので、PCに接続するヘッドホンが必要です。スマホ用の安いイヤホンでも十分です。
5.アプリ
アプリは下記から無料でダウンロードできます。利用には会員登録が必要ですが、すべて無料で行えます。
SYNCROOMの特徴
SYNCROOMは仮想空間のカラオケルームのようなものだと思ってください。自由に部屋を開いて、そこに人を招くことができます。部屋には鍵をかける(パスワードを設定する)ことができるので、バンドの練習などであれば鍵をかけて他人が入れないようにし、ジャム・セッションであれば誰でも入れるように鍵をかけず、と使い分けが可能です。
以下のページでは現在セッションが行われている部屋が一覧できます。色々なジャンルの人が使っている様子がわかります。韓国からの利用も多いようです。
https://syncroom.yamaha.com/play/
ひと部屋には5人までしか同時に参加できませんが、2つの部屋を接続して最大10人までセッションができます。
自分が聴こえる音量やパン(左右のステレオ)は個別のプレーヤーごとに自由に設定できます。また、自分の音にリバーブをかけたりすることも可能です。
セッション中はWAVファイルで録音ができます。メトロノームを再生したり、オーディオトラック(たとえば伴奏など)を流しながらセッションもできます。
利用時間は、部屋を作ってから6時間ですが、6時間もセッションしたらへとへとになってしまいますので気にしなくても大丈夫でしょう。
SYNCROOMの感想
私は、アイリッシュ・セッションの部屋に参加してみました。
Facebookに日本人が運営するSYNCROOM・セッションの公開グループがあり、200人弱が参加しています。ここで、いついつセッションするよ、と告知が出ます。
https://www.facebook.com/groups/161110015319541
参加してみた感想ですが、遅延は驚くほど少なかったです。というか、全く無いように思えました。まるで奇跡でした。ただ、音声だけではプレーヤー同士の表情がわからずコミュニケーションが取りにくいので、Facebookなどの別サービスでグループのビデオ通話をし、そちらはミュートにして映像だけ利用すると改善されました。
SYNCROOMがあれば、田舎にいながらにしてアイリッシュ・セッションが楽しめてしまいます。都市圏に住んでいない私としては本当に画期的で、リハのためにわざわざ街までいかなくても良くなってしまうのです。なんとありがたいことでしょう。
私は韓国人とのセッション・グループを立ち上げて、月2回ほど、韓国語学習も兼ねて楽しくセッションしています。
コロナ禍がこの先どうなるか分かりませんが、これから遠隔セッションの需要はますます高まっていくことでしょう。きっと英語版ができて、アイルランドと日本とでスマホでセッションができるようになる日も遠くないはずです。
このサービス、現在はβ版で無料で利用することができます。いずれ何らかのマネタイズはするのでしょうが、仮に有料だとしてもかなり使えるサービスであることは分かりました。ぜひ、読者の皆様も活用してみてはいかがでしょうか。