アイリッシュ・ミュージック、ケルティック・ミュージックを中心としたヨーロッパのルーツ音楽についての情報、記事、読物、レビューをお届けする月2回発行のメールマガジン「クラン・コラ」。
当ブログにて、不定期にバックナンバーをお届けします!
クラン・コラ Cran Coille:ケルト・北欧音楽の森 Issue No.290
- アイリッシュ・ミュージック・メールマガジン 読み物編
- March 2019
Aidan Connolly 初来日に寄せて〜「エイダンは北島三郎だった!」:赤嶺文彦
みなさん、こんにちは!
赤嶺文彦といいます。(なんでお前が神聖なる「読み物編に!」いうツッコミは無しやでw)
実は、4月にやらせていただくことになっている、エイダンコノリーさんとのツアーの情報を、クラン・コラさんの「情報編」に載せていただこうと思いきや、 どうやら締め切りに間に合わなかったらしく、はたおさんのご厚意で「読み物編」に書くチャンスをいただいたのでした。
「遅れるのが基本」のゆる〜いアイリッシュタイムwで生活している赤嶺は、一分の列車の遅れでも駅員が謝罪する「ジャストインタイム」な日本の原稿納期には、「新撰組」の近藤勇ばりに豪快に間に合わんのですわ 笑
そもそもお前、誰なんだ?との皆さんのお声が、新海誠作品よろしく六千マイルの遙かかなたから時空を越えて、僕の耳に「君の名は?」とささやいておりますw 僕は無駄に長くアイルランドのクレアっつーところに住んでるただのおっさんなんだけど、アイリッシュ音楽にもちょっかいを出してて、、、でもやっぱりキリンジはいいな〜? サニーデイサービスも好きです?
あ、エイダンとのツアーの話するんだった。早くも紙面が足りないぞw!!
よく「何でエイダンなの?」って聞かれます。
答えは、2つあって、1つ目は赤嶺がダントツで一番好きなフィドラーだからです。シンプルにそれだけ。アイリッシュ音楽やるなら、ホンマにみんな早く自分のアイドルを見つけた方がいいよ。アイドルがいるいないで、進歩の速度が格段に違うから。
2つ目は、エイダンの人柄です。若いのにしっかりした好青年です。優しいし、気が利くし、約束守るし、返事も仕事も早い。しかも聡明で思慮深い。外資系なんとか生命のコマーシャルかよ!w でも、人柄が超絶いい人じゃないと、ツアーをオーガナイズする身としては、正直無理です。
あ、3つ目があったw オレって超幸いなことに、アイルランドに長く住んでるってだけの理由でなんか話が盛られててw、日本のミュージシャンの人達がクレア方面に来た時に、結構会いに来てくれたりするんだよね。で、いろんな話聞くんだけど、日本で演奏してるアイリッシュと現地で聴くアイリッシュの「溝」に悩んでる人が実に多い!!
日本でアイリッシュやるのって、本当にいろんな意味で大変だと思うから、やっぱ昭和の人情男としては応援したくなるじゃん。スライゴーで一人で津軽三味線の練習してるアイリッシュとかいたら、やっぱ大変だろうな、とか思うもんなw
おれは持論として、日本風に弾くアイルランド音楽こそが、アイルランド音楽の発展という音楽史的な意味ですごく重要だと思ってるので、日本の人は、日本人にしかできない繊細な解釈でアイリッシュ音楽やってもらいたいんだけど、そういう話はちょっと脇に置いておいて、日本の人が感じてしまっている「溝」をなんとかしてあげたいな、って前々からずっと思ってた。で、そういう溝を埋めるための一番の近道って、エイダンなんじゃなんかって思った訳だ。
伝統的な演奏表現を深く深くリスペクトし、愛するエイダン。「歴史と伝統」を存分に取り入れた上で、それを21世紀を生きる若者である自分の演奏技術とうまく融合することで、ある意味アイルランド音楽のフィドル演奏の概念を大きく進化させてしまった男。それがエイダンです。(何と大それたことを! お主、やるな!笑)
そんな彼の演奏を生で聴くこと。ライブやレッスンで体験すること。エイダンの演奏に触れることで、「溝」を埋めるという文脈で「開眼」する人が今回のツアーで沢山出るんじゃないかって、期待しています。
日本のみんなが感じる「溝」の中身は、おそらく知識や技術じゃ解決できないものだと思うよ。それは、エイダンのような優れた奏者の演奏を直接体験すること、その空気感に恋をすること、ああ、そういうことね!と直感的に納得すること、、、
アイルランド音楽をやる上で直面する様々な課題は、頭でなく心で、理屈でなく感性でしか解決できないんじゃないかな。何故って、アイリッシュ音楽は、正統な技術と理論がものを言う「楽譜の音楽」じゃなくて、もっと土着的でどろっとしたアイリッシュ風な「心の演歌」だから。
どうぞ、ツアーのライブや発売中のツアー限定CDで、エイダンの「こぶし」を聴いてみてください。日本のみなさんの、オレ流のこぶしを入れまくった、うなるような演奏を期待してます!(*^▽^*) おれもそこを目指して頑張ります!
文責:ふーさんこと、赤嶺文彦^^
(追伸)
あ、それとさ、もしクレア方面来ることがあったら、知らん人でもぜんぜん構わないから連絡ください!(笑)日本の人としゃべるの大好きなんで\(^O^)/
2019来日ツアーライブ日程
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●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月8日(月) start 19:30
【会場】東京(高円寺)ザ・クルーラカーン
【料金】2500円(ご予約)
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)
*ライブ後にセッションあります!
【ご予約】aidan.fu.tokyo@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月9日(火) start 19:30
【会場】東京(高円寺)Grain グレイン
【料金】2500円(ご予約)
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)
*ライブ後に交流会あります!
【ご予約】aidan.fu.tokyo@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月11日(木) start 19:00
【会場】長野県松本市 珈琲茶房 かめのや
【料金】ご予約:一般2500円/学生1500円 +1オーダー
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki) スペシャルゲスト 瀧澤晴美 (Flute)
*ライブ後にセッションあります!
【ご予約】aidan.fu.matsumoto@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月13日(土) start 15:00
【会場】名古屋(西大須) カフェムジーク
【料金】2500円+1ドリンクオーダー
(1ドリンク目はアイリッシュ・ティーのみとなります)
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)
【ご予約】aidan.fu.nagoya@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月14日(日) start 18:00
【会場】名古屋(伏見) シャムロック
【料金】投げ銭
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
特別企画! フィドル3本(トリオ)のライブ
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)、スペシャルゲスト 小松大 (fiddle)
【ご予約】aidan.fu.nagoya@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月16日(火) start 19:30
【会場】京都(河原町二条) Gnome ノーム
【料金】ご予約:
一般 2500円+1ドリンクオーダー
学生 2000円+1ドリンクオーダー
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)
*ライブ後にセッションあります!
【ご予約】aidan.fu.kyoto@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月20日(土) start 17:00
【会場】大阪(梅田) Bodaiju Cafe ボダイジュカフェ
【料金】一般 3,000円 / 学生 2,000円(予約制)
(コンサートのみ … +1ドリンク注文)
(コンサート&セッション … +2ドリンク&1フード注文)
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)
*ライブ後にセッション(要予約)あります!
【ご予約】knitofficial@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
●Aidan Connolly & Fu Akamine [Japan Tour 2019]
【日時】4月21日(日) start 14:30
【会場】大阪(堺)土塔庵
【料金】一般 3,000円 / 学生 2,000円(予約制)
【内容】気鋭のフィドラーエイダンコノリー、待望の初来日公演
スペシャルコンサート Aidan (fiddle), Fu (fiddle, Bouzouki)、
上沼健二(Fiddle、Bodhran、西川智子(Flute, Whistle)
【ご予約】knitofficial@gmail.com
【詳細】ツアー公式サイト https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
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ツアー限定CDも好評 発売中
https://aidanfujapan.wixsite.com/aidanfu
ケルトの笛屋さん 京都field店 1周年記念イベント:hatao
京都にあるケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」が、明日3月21日春分の日に1周年を迎えます。たくさんのお客様、そして場所を提供してくださっているfieldの洲崎さんのおかげです。ありがとうございます!
日本に、アイルランドにあるような伝統音楽のお店を作りたい!というのは私の夢のひとつでしたので、エニスの小さな伝統音楽ショップ「カスティーズ」のようなワクワクするお店を目指して作りました。小さなスペースですが、取り扱う楽器の種類はこの1年間でどんどん増えてゆき、いまや所狭しとたくさんのティン・ホイッスルやアイリッシュ・フルート、パーカッション、ハープや蛇腹楽器が並んでいます。
営業時間は週に3日、1日あたり5時間だけの短い営業ですが、全国からお客様が来店くださり、夏休みや連休は学生さん、帰省の社会人、ときどき外国人のお客様もいらっしゃいます。ツアー中のアーティストの方々もたくさん来てくださいました。普段は店長「まっつん」がお店にいますので、私はたまにしか店頭に立たないのですが、楽器と音楽に囲まれた空間が、本当に心地よくて、幸せな気分になります。
21日のイベントは、午後15時から20時まで営業、当店の楽器アドバイザーのみなさんが、お買い物相談に応じます。2階のIrish pub fieldも全面協力してくださり、楽器の体験会やセッションもあります。
イベント参加は無料ですので、ぜひふらりとお立ち寄りください。
●日時:2019年3月21日(木) 15時〜23時
●内容:
春分の日はケルトの笛屋さん京都field店の開店記念日!
普段は休業日の木曜日ですが、店舗は15時〜20時に特別営業! 当店の公認楽器アドバイザーが常駐し、皆さんと楽器のお話ができます。お買い物相談もぜひどうぞ!
楽器店の下の階のIrish PUB fieldのご協力をいただき、15時-18時、20時〜23
時にセッションを開催。アイリッシュのあらゆる楽器がそろうケルトの笛屋さんケルトの笛屋さんの楽器を持ち出して試奏しちゃいましょう。
●担当楽器アドバイザーが来店します! 無料体験講座もあります!
ハンマーダルシマー 稲岡大介
ハープ 上原奈未
バウロン 上沼健二
蛇腹楽器 吉田文夫
管楽器 hatao
●スケジュール
15時〜17時 楽器試奏セッション
17時〜 ハープ無料体験講座(30分)
17:30〜 アイリッシュ・フルート無料体験講座(30分)
18:00〜 ハンマーダルシマー無料体験講座(30分)
18:30〜 パーカッション無料体験講座(30分)
20:00〜 アドバイザーによるデモ演奏(コンサート)
21:00〜23:00 アイルランド音楽のフリー・セッション
●セッション参加者はドリンク半額になりますので、お気軽に手ぶらで遊びに来てください。
●場所:ケルトの笛屋さんfield店、Irish pub field
京都府京都市中京区元法然寺町
● 参加費:無料、申込み不要 ※飲食をご注文ください
NHK-FM 今日は1日ケルト音楽三昧:大島 豊
NHK-FM では「今日は1日〇〇三昧」という番組を時々放送している。タイトル通り、アーティストや音楽ジャンルに焦点をあてて、どっぷりその世界にひたろうという趣旨だ。
この号が配信されるその明日、03/21(木・祝)に「今日は1日ケルト音楽三昧」が放送される。12時半から夜の9時15分まで、途中、夜7時前後のニュースを除き、生放送である。そのホスト役に、あたし、おおしまゆたかとトシバウロンが出演する。公式サイトはこちら。
https://www4.nhk.or.jp/zanmai/363/
リクエストも上記サイトから可能だ。すでにかなりのリクエストが来ていて、定番のミュージシャン、楽曲ばかりかと思ったら、意外に渋い、というか濃いものが来ていて、喜んだり、あわてたりしている。〈The Sally Gardens〉とか〈Tam Lin〉とかのリクエストが来ているのは、やはり歌ではなくて、チューンでしょうなあ。
あわてているのは、かけたい音源のCDがみつからないためだ。あたしはCDなどは全部リッピングして、普段はファイルで管理し、聴いている。データベースはできているから、楽曲名を入れれば、こういう人がやってるよとぱっと出てきて、それを聴けば、ああ、これがいいな、とすぐわかる。ところが、その元になっているCDは家中に分散していて、どこに何があるのか、もうまったくわからない。
というので、先日来、家中ひっくり返す勢いで探している。のだが、まだまだ見つからないものがあって、明日は夜、どうしても逃せないライヴがあるから、今日中になんとかせねばならず、これを書いて送ったらまた捜索に戻ります。
それと、今回は「ケルト音楽」というので、アイルランドだけではなく、スコットランドやノーサンバーランド、ウェールズ、北米、オーストラリアなども含まれる。わが国産のものも、すでにリクエストをいただいているものもあるので、結構紹介できるだろう。
ということで、不悪。なお、リクエストは番組中でも受け付けるそうだ。もっともNHK のライブラリに無いものは、ちょと無理でしょう。
次号は再び、Colleen Raney の歌を聴く続きにもどる予定。
日本のトラッド系アーティストのCDレビュー:Tricolor “Tricolor Big Band”:大島 豊
このアルバムの企画を聞いたとき、いささか驚きました。このバンドの音楽は普段着の、あるいは家での毎日の食事に通じるところがあって、何か凄いことをやってやろうという気負いも衒いも無い一方で、良い素材を揃え、念入りに手をかけて仕立てたり、料理したりして、質の高いものを生み出すのが本質だし、そこが魅力だと思っています。わが国のケルト系ではこれまでで最大の人数を揃えたビッグバンドというのは、それとはいわば対極にある、豪華なドレスで着飾った宴会に思えたのでした。
けれども、これはやはり筆者の勘違いだ、と今になってわかります。確かにこのアルバムのジャケットや、PV、あるいはレコ発ライヴのステージなどでは、手の込んだデザインと衣裳も見られます。けれども、それは宮廷での饗宴というよりはハウス・パーティー、とりすました社交の場ではなく、気心の知れた仲間たちのアトホームな集まりなのでした。
改めて振り返ってみれば、前作《うたう日々》ではゲスト・シンガーを4人迎えて、その世界を大きく膨らませていました。ビッグバンドへの布石はあそこです でに打たれていたのでしょう。
このアルバムのプロジェクト自体、1年以上前から始まっていたといいます。ここに参加しているメンバーは、全員が集まったのは今回が初めてではあるものの、いろいろな形、組合せで、tricolor のメンバーが音楽をともにしてきた人たちです。中には録音当日におたがい初めて顔を合わせた人たちもいたそうですが、個々には tricolor と深くつながっていました。また、最終的な形におちつくまでに、人数を変えて、いろいろライヴで試してもきたそうです。様々な条件、スケジュールやアレンジやの多くの条件から、アルバムを録音した時点でおちつくところにおちついた、というのが、ここに登場しているメンバーというわけ。
こうして出来上がったこの録音は、人数、編成、そして音楽において、類例の無いものになりました。ゲストやサポートなどでトータルではこれを超える人数がクレジットされている録音はあります。けれども13人が一斉に音を出しているのは初めてです。アイリッシュで使われる楽器は一通り揃っていますが、わが国ではバンジョーが加わるのはまことに珍しい。それにニッケルハルパがこういうところに加わるのは、海外でもありません。多人数バンドによる音楽ということでは、たとえばケイリ・バンドもあるわけですが、これはダンスの伴奏ではありません。
多人数でやりたいという欲求は音楽の土台に仕込まれているベクトルなのかもしれません。すべての音楽がそうだというのではないでしょうが、少なくともアイリッシュに代表されるケルト系の音楽はどれも基本的に備えていると思われます。スコットランドには Unusual Suspects やその前にパイプ・バンドがありますし、ブルターニュには Bagad Kemper を筆頭とするバガドがあります。これらは数十人から、時には100人近い大所帯になります。おそらくは、この類の音楽をやっていると、大勢でやりたくなるのでしょう。
多人数でやるメリットは単に音量が大きくなるだけではありません。それとともに中身の詰まったヴォリューム感が出るようになります。アンプによる増幅でも音は大きくなりますが、塊としての実体がやってくる感覚は不可能でしょう。合成音をいくら重ねてもやはりムリ。肉体を持ったミュージシャンが多数いて、一斉に楽器を鳴らすことでしか実現できない感覚です。クラシックの管弦楽は、時代が下るとともに規模が大きくなっています。それにジャズのビッグバンドやスティールドラムのビッグバンドも、そうした量感を得るのが第一の目的です。
そして、それはリスナーにとって以上に、ミュージシャンたち自身が愉しいものなのでしょう。アルバムレコ発ライヴのステージでは、ミュージシャンたち自身が実に愉しそうで、顔には自然な笑顔が浮かんでいました。実際、メンバーの中村大史さんは2曲やったところで、「2曲で満足しちゃいました」と言ったものです。大勢の仲間と一緒に音を出す、音楽を演奏する。アイリッシュ・ミュージックのセッションはその欲求が最も原初的かつ洗練された形で現れたものでもあります。
みんなで一斉にユニゾンで演奏する愉しさは格別ではありましょうが、愉しいのはそれだけではない。というのが、このアルバムの一つの柱です。アレンジを念入りに施し、各々に光が当たり、おたがいに支え、また支えられる役割を交替してゆくのもまた愉しからずや。多人数でやることのもう一つのメリットがここにあります。複雑で変化に富んだアレンジが可能になります。全員でユニゾンもできれば、全員が各々異なるメロディを奏でることもできます。
ですから、これは本来は生のライヴで初めて実感をもって体験できるものであります。録音では、物理的な制約があって、本来の音のヴォリューム感、膨らみ、量感を感じるのは、不可能ではないにしても、ハードルはかなり高いものがあります。
とはいえ、こうしたバンドが常時活動していて、全国津々浦々をツアーしてまわっているという理想世界には、我々は残念ながら住んではいません。そこで、目一杯想像力をたくましくして、その不足を補いながら、この録音を聴くことになります。
そうして耳を傾けてみれば、今度はライヴでは気がつかない細部が聞えてきます。ユニゾンでの音の重なり方。リピートでの編成の違い。パーカッションの細かい芸。曲のつながり、ビートの転換での呼吸。ギター・カッティングとダブル・ベースとパーカッションの役割分担。
そして楽曲の良さ。スコットランド産の楽曲が多いだけでなく、中村さんの作曲になる[10]にもスコットランドの響きが聞き取れるのは、興味深いところですし、スコットランドも大好きな筆者としては、素直に嬉しい。レコ発ライヴではオープナーとして演奏されて、体を浮かせてくれた[09]はその代表。[05]も佳曲で、これは当然ながら、アイルランドでは生まれないでしょう。ここでのピアノの響きはアルバム全体のハイライトの一つです。
冒頭、長尾さんの〈Across The Border〉は、ジブラルタル海峡を初めて渡る直前、彼方のアフリカとイスラーム圏に想いを馳せて作った由。そう聞くと、テンポが上がる後半に燕たちの飛びかう様が浮かんできます。
さらに、ここには歌があります。tricolor が音楽を担当した、南島原市の観光PR用ショートムービー『夢』の挿入歌〈夢の続き〉と、同じテーマを角度を変えてうたった〈うたかた〉。後者では歌そのものも然ることながら、ユニゾンで奏でられる間奏での、アイリッシュでは普通使われない音階にぞくぞくします。
観光PR用とはいえ、『夢』は独自のストーリーを持った、1篇の映画として見て面白い作品です。実際、観光PR用短篇映画の国際コンクールでグランプリを受賞してもいます。〈夢の続き〉はその中で印象的な使われ方をしていますが、この曲自体、大ヒットしてもおかしくない名曲でしょう。ぜひ、『夢』を見て、この歌にこめられたストーリーと想いを確認してください。その上で聴くと、また新たな切実さをもって響いてくるはずです。
とはいうものの、最大のハイライトはやはりラストを締めくくる[11]。Shannon Heaton のペンになる〈Anniversary〉は、シャロン・シャノンがかの〈Mouth of the Tobique〉メドレーの1曲めにやっているのが印象的な、心浮き立つ曲。だんだんと楽器が増えていって、フル・バンドになったところで、もう一度トリオにもどって始めるその次が曲者。これはさらにその次のリールのテーマになっている〈パッフェルベルのカノン〉をジグに仕立てたもの。初めてこのメドレーを録音したとき、中藤さんの希望で、長尾・中村両氏がアレンジしています。これがはさまるために、次のリールの爆発がより大きくなります。もう一度、楽器がだんだん増えてゆき、「原曲」のマーティン・ヘイズのヴァージョンよりも、より華やかに、祝祭の感覚が膨らんでゆきます。これを聴くたびに、ステージ一杯のミュージシャンたち、いや客席でも楽器を持った人たちが大勢いて、会場全体が湧きたっている光景が浮かんできます。まさにビッグバンドの醍醐味ここにあり。ああ、このまま、終らずに、いつまでもいつまでもこの演奏が続いていってくれないものか。
これは時代を画するアルバムです。現在の、わが国におけるアイリッシュ、ケルト系音楽演奏の隆盛は、ほぼ10年前に始まっていますが、10年を経て、こういう音楽が生まれるところまで来たのです。これだけ多数の、また多彩な楽器のミュージシャンたちが、セッションではなく、しっかりと細部まで組み立てられた形で、1個の有機体として、この種の音楽を演奏したのは、初めてのことです。ジャズの優れたビッグバンドと同様、隅々までアレンジされていながら、自由に伸び伸びと演奏されています。
もう一つ、おそらくより大事なことには、ここには強力なリーダーがいません。アレンジも、参加しているミュージシャンに任せたり、全員で相談したり、あるいはキャッチボールをしながら進めたそうです。最終的なまとめはtricolor の3人がやっているにしても、そうしたコントロールは表には出ていません。クラシックのオーケストラは言わずもがな、世のビッグバンドはいずれも誰かがカリスマ的な「指揮者」となって全員を引っぱる形です。わが国を代表するビッグバンドである渋さ知らズもはにわオールスターズも、あるいはパノラマ・スティール・オーケストラも、渦の中心は明瞭に存在します。ここにはそういう存在がありません。参加している全員で作りあげている。大きな一つの渦よりは、たくさんの渦が踊っているけしきです。あるいはアイリッシュ・ミュージックに備わる基本的性格のなせる技かもしれませんが、これも画期的なことです。
最前衛を突っ走る人たちではなく、一見、どちらかといえば保守的にも見える「普段着」バンドの tricolor からこういう音楽が生まれたのを見れば、真にラディカルな試みは、「常識はずれ」なところよりも、毎日の暮しの質を深めてゆくところから発するとも言えましょう。
音楽、七転八倒!:field 洲崎一彦
前回の記事で、当アイリッシュセッションに対するあれやこれやを書き連ねましたが、その時に、「音楽そのものの楽しみ方という部分になると、これは、また、ややこしい話に 突入してしまう」と言って、飛ばしてしまった部分に、今回はあえて触れることにします。
私は、先代のクランコラの読み物編投稿の頃から、アイルランド音楽についてあれやこれやと乱暴な意見を書き散らかしていました。加えて、その頃のfieldアイ研の活動の一環として、セッション練習会というものを主催し、そこでも、皆さんの考えているアイルランド音楽はアイルランド音楽どころか音楽ですら無いぞ!というような過激な発言を参加者に対して浴びせかけ、いわば、人をびっくりさせてナンボみたいな主張を振り回していたものでした。
私がこういう極端な意見を持ったきっかけは、これまでもいろいろな所で発言して来たと思いますが、2003年か2004年に、アイルランド在住のフィドラー、パットオコナー氏が初めて当パブにお越しになった時に一緒にセッションをしたことでした。
私達はfieldアイ研のメンバーで某大学の学園祭のステージに招かれてひとしきり私達のアイルランド音楽を演奏して戻ってきた所で、まったくそのままの勢いでこのパット氏のいるセッションになだれ込んだのでした。
セッションに加わった瞬間に私達の何人かが、ハッと目を見合わせました。いわゆる目でしゃべるというやつです。この時の数人は言葉に出さずともまったく同じことを瞬時に思ったのです。
さっきまで自分達が演奏して来たもの(音楽)とまったく違う!
そうです。同じアイリッシュダンスチューンなのですが、まったく違うのです。この時のショックの大きさは今でも忘れることができません。
これ以来、ここで目を見合わせた数人、正確にはUさん、 Mさん、Tさんと私の4人は、あのショックは一体何だったのか?あの時に感じたパット氏と私達の決定的な違いとはいったい何なのか?と言った事を夜な夜な語り合い、CD他の音源を持ち寄って、ここのこれがこうで!とか、いや、それはこういう事なんちゃう?とかまさに白熱した議論を繰り広げたのでした。
この議論の中で、アイ研主催のセッション練習会が発足し、私達の議論の輪にいろいろな人に入ってもらおうともくろみましたが、
とにもかくにも、
私達の考えるアイルランド音楽はきっと間違っているぞ!
じゃあどうしたらいいのか?
それは判らないから皆で一緒に考えよう!
と、これでは、やがて、人は去って行きますよね。この練習会は数年にわたって続けましたが、結局は最初の4人もバラバラになってしまいました。
つまり。どうしても、説明のしようが無い。のです。
結局、何が伝わらないのか?
あの、パット氏とのセッションで直感した、これはぜんぜん違うもの(音楽)だ!というショックですね。これが伝わらないと何も始まらない。最初の4人はここを共感していた。でも、その後、議論をこねくり回しているうちに何が何だか判らなくなってしまって、しまいに、ちょっとした表現の違いがどうしても譲れないポイントにふくれあがってしまう。そうして、この4人もバラバラになってしまった。混迷を極めるとはまさにこの事でしょう。
はじめは、それこそ、皆さんにパット氏のCDを聴いてもらう。自分達の演奏の録音を聴きくらべる。ぜんぜん違う。でも、ほとんどの人は、こんな名人の演奏と比べても違うのは当たり前でしょう。と言う。そりゃあ、そうなんですが・・・・・。
こういう事を続けていくうちに、私は、あ、これは、アイルランド音楽に限った事ではないぞということに気付き始めるのです。音楽全般にわたって、「こちら」と「あちら」のもの(音楽)があることに気がつき始めます。まったく同じ曲でまったく同じアレンジの演奏を比べても「こちら」と「あちら」には歴然とした違いがある。そして、これは、いわゆる西洋音楽のほとんど全てで感じることができる。では、それのどこが具体的にどう違うのか?ここが、すぱっと説明できないのです。
昔は、黒人音楽のリズムは日本人には演奏できないのか?という議論が盛んでしたが、いつしか、こういう論調の話を耳にすることが少なくなりました。でも、私の焦燥はこの話のトーンに近いものではないかとも直感しています。つまり、私の焦燥は時代にも逆行しているのかもしれません。
先代のクランコラが休刊してもはや7年にも8年にもなります。また、先述の練習会が消滅してからも同じぐらいの年月が過ぎています。しかし、私のパット氏とのセッションで感じたあの「違う!」感は薄れるどころか、ふくれ上がりさえしています。
これは、何をどうしても、まわりの音楽仲間に伝わらなかったという焦燥感も手伝って、いや、伝わらないどころか様々な誤解も生みました。私は特定の誰かを攻撃したり悪口を言うつもりなど毛頭ありませんし、自分だけが何か特別な秘密を知っているというような優越感をアピールするもりも毛頭ありませんでした。
この焦燥感は、よりその口惜しさにこだわる自我が増幅しているために持続するのだとは理解しているのですが、音楽をやる以上、もう、そこを無視して通ることは出来ないという心境が如何とも動かし難い。
それではどうしたらいいのかと言う事は、実は判っているのです。私が自分でなんらかの楽器を演奏してこの違いを音で示すことができれば良いのです。間違いありません。
そして、もちろん、この事には努力して来ました。が、あくまで、はっきり判らない正解に向かっての努力です。雲をつかむような話です。日々の生活の中で少しでもヒントを感じたらそれを試してみるというような事は現在でも続けています。いろいろな試みがありました。しかし、これでどうだ!これで、皆さん判ってくれるだろう!という所にはまだ至っていません。
もうだいぶ歳をとった私です。「こちら」の私が「あちら」の音楽を奏でること。死ぬまで頑張ったとしても、これが果せるでしょうか?私はここにこだわる以上、この事にトライしなければいけないという事は理解していますしこれからも続けるつもりです。しかし、出来れば、将来有望で元気な若者にこそトライして欲しいものなのですが。
すると、何としてでも、若者達にこれを伝えなければならないということになって、話は堂々巡りをしてしまいます。
実を言うと、上記のような経緯があって、この新生クランコラではもうこういう音楽の話題は書かないで置こうと心に決めていました。が、新生クランコラももはや3年目に突入し、過去記事を振り返ってみると、私はすでにけっこうこの辺のスレスレの話題をしてしまっている。そして、この方向のまま進めば再び中途半端な暴言を吐く恐れも出て来ることは容易に想像できます。何故かというと、まだやはり意識して押さえているからです。押さえているという意識は突然わきおこる放出欲を爆発させるかもしれません。
だから、今回はこのように、先に私の正直な心情を吐露してしまおうと考えたわけです。少しずるい布石かもしれませんが、やはり、私はこの事を、やむにやまれず発信せざるを得ないのだという事を覚悟したからです。
というわけで、私は未だに、音楽に七転八倒していますし、これからも七転八倒していくつもりです。
まあ、音楽がこんなに苦しいものになるとは夢にも思っていなかったというのもありますね。(す)
オーケストラアレンジで聴くケルト・北欧の伝統音楽 第13回(最終回) スコットランド幻想曲ほか:吉山 雄貴
編集後記
全国でセント・パトリックスデイが盛り上がっていたようですね。皆さんの街ではいかがでしたか?
当メルマガ及び「ケルトの笛屋さん」のコラム・コーナーでは、ライターを随時募集しています。ケルト音楽に関係することで、他のメディアでは読めないもの、読者が興味を持ちそうな話題を執筆ください。頻度については、一度にまとめてお送りくださっても構いませんし、 毎月の連載形式でも結構です。 ご応募に際しては、
・CDレビュー
・日本人演奏家の紹介
・音楽家や職人へのインタビュー
・音楽旅行記
などの話題で1000文字程度までで一本記事をお書きください。ご応募は info@celtnofue.com までどうぞ。
★ライブスケジュールは以下のページでカレンダー形式で掲載していますのでご利用下さい。
https://celtnofue.com/community/event/
★全国のセッション情報はこちら
https://celtnofue.com/play/session_info.html
★全国の音楽教室情報はこちら
https://celtnofue.com/play/lesson_wide.html
クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月2回刊)
★クラン・コラでは読者の皆さまから寄稿を募集します。ケルト音楽やヨーロッパの伝承音楽について、書きたいテーマでお寄せ下さい。詳しくは編集部までご連絡ください。
- クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月2回刊)
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発行元:ケルトの笛屋さん
Editor : 竹澤友理*掲載された内容を許可無く転載することはご遠慮ください。
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「クラン・コラ」とは
日本のケルト音楽普及に尽力されたライターのおおしまゆたか氏と、京都でアイリッシュ・パブ feildを経営する洲崎一彦氏が編集し発行されていた、国内におけるケルト音楽の情報を網羅したメールマガジン「クラン・コラ」。
2011年に一度休刊しましたが、5年の沈黙を経て2016年に復刊!
編集・発行をケルトの笛屋さんが引き継ぎ毎月2回のペースで発行中です!
メールマガジンの内容
毎月2回、10日・20日に発行しています。
10日発行のPart 1は「情報編」として、発行日近くに行われる国内のケルト音楽ライブ情報をぎっしりと掲載!また、コンサート、ライブ情報の掲載依頼も随時募集しています。
20日発行のPart 2「読み物編」では、アイリッシュやケルト音楽・文化にまつわる話題お届けしています。クラン・コラの創刊者のおおしまゆたか氏、洲崎一彦氏をはじめ、さまざまな連載陣(店長含む)やゲストライターによる濃密で読み応えのあるメルマガとなっています!