ライター:hatao
こんにちは! 笛狂いのhataoです。
今回は、スウェーデンの松の縦笛「オスピパ」を修復、改造に成功したので、その経験をブログでシェアしたいと思います。
フランケン・オスピパの誕生秘話
オスピパはスウェーデンの笛職人グンナル・ステンマルク氏が製作している、スウェーデンの中北部ヤムトランド地方の伝統音楽で演奏される6孔の縦笛です。ティン・ホイッスルと同じく、下からドレミ……の七音階が得られるシンプルな運指です。この笛、硬木のブラックウッドで作られるアイリッシュ・フルートとは異なり、比較的軽くて柔らかい松でできていることと、部分的にとても薄いので強度がやや弱くなっています。
そんな、か弱いオスピパを持って数年前にスウェーデンを旅行した際のことです。スーツケースに笛を入れて旅をしていたのですが、日数の経過と共にお土産品や楽譜やCDで膨れたスーツケースを無理やり閉めようと上に座ってしまい、中でぺちゃんこに潰してしまったのです。
その壊れたオスピパをなんとか修復させようと、木工用ボンドで割れ目をつなぎとめて、木綿糸でぐるぐる巻きにして圧着させ、フランケン・シュタインのような状態にしました。笛はウィンドウェイと息が音に変わるラビュームが壊れておらず、そしてどこからも息が漏れていなければ、きちんと演奏することができます。そのように修理したところ音が鳴ったので、味を占めた私は指孔もヤスリやカッターで広げて、音程を自分好みに改造しました。こうしてライブで演奏をし続け、なんならこの壊れたオスピパでCDも2枚録音したのです。(Silver Lineと森の時間です)
森の時間 Tiden i Skogen / hatao & nami
そんな壊れたオスピパを使い続けることに限界を感じてきた2年前、新しくグンナルさんにオスピパを作ってもらい、このフランケン・モデルを使うことは少なくなりました。こんな笛を売るのも忍びなく、いよいよ、熊野の家に笛塚を作って埋めて供養しようか……。と思っていた矢先。
どうせ捨てるなら、好き勝手に改造しちゃえ! と、右手小指をダブル・ホールに改造し、右手親指の裏孔もあけて、8孔笛に改造しました。これが思いのほか成功し、見事な全半音階対応のクロマチック楽器に生まれ変わりました。ついでに、醜い木綿糸をほどいてやり、段差を木工パテで埋めて、やすりがけをして、全体的な見た目もかなりすっきり綺麗になりました。
自分で改造した8孔縦笛(元北欧の笛)をお披露目します。 pic.twitter.com/dZB9A4cF0k
— ケルトの笛 hatao (@hatao_flute) November 25, 2022
笛の指孔を改造する
指孔は音響的な物理法則に基づいています。物理は万物の真理なので、どんな笛も同じ原理です。
ごく簡単に説明をすれば、以下のようになっています。
- 指孔を上(吹き口側)にずらすほど、音程は上がる。下げるほど、音程は下がる
- 指孔を広げるほど、音程は上がる。狭めるほど、音程は下がる
- 指孔が大きいほど音量は大きくなり、音色は開放的になる。小さいほど音量は小さくなり、音色はこもって暗くなる
- 指孔が大きいほど、クロスフィンガリングで音程を下げる効果が小さくなる(クロスフィンガリングが効きにくく半音が作りにくくなる)
- 指孔の位置と大きさは倍音の音程に影響を与える
例えば音程が低い音があれば、上方向に向かって孔を広げれば音程は上がります。逆に高すぎる音があれば、上方向から孔を埋めてやれば音程は下がります。これはテーピングで行うのが一般的です。
ということは、指孔を極限まで小さくして、あるべき場所よりも上のほうに開ければ、手の小さな人でも押さえやすい笛ができるかと思うでしょうが、こうすると第2オクターブの音程が上がりきらず(オクターブが狭くなり)、音程が取りにくい笛になります。ですので、ある程度押さえやすく、倍音も正しい場所に孔を開ける必要があります。
こういった指孔の改造作業をするのに、オスピパは最適だったのです。
なぜならオスピパは柔らかく加工が簡単にでき、アイリッシュ・フルートのように単価が高くないので心理的にも負担が少なくて済むからです。というか、アイリッシュ・フルートのような横笛はアンブシュアでどうとでも修正できてしまうので、そもそも改造の必要がありません。
具体的な作業方法
すでにある指孔を広げるには、丸ヤスリを使います。ただし正円形にならず見た目がいびつになるので、見た目にこだわりたい方は手動のリーマーか、電動ボール盤や電動ドリルを使うと良いでしょう。電動工具はビットを1mm単位で選べるので、細かな作業ができます。新しく孔を開けるには、上記の電動ボール盤や電動ドリルが便利ですが、無い場合はキリとリーマーを使います。
孔を埋めるには、木工用パテを使います。これは人工素材ながら固まると木のような見た目と触感になる素材です。チューブから出す時は水っぽいのですが、まる1日で硬化し、そのあとは刃物やヤスリで加工ができます。
これを使って、私は6番目の指孔を一度完全にふさいでしまい、しっかり硬化したあとでダブル・ホールを開けました。
このダブル・ホールはとても便利です。D管のホイッスルで言うところのDとD♯を演奏するためのもので、通常は「半分閉じ」によって得られる音なのですが、音程のコントロールが大変難しく、また音色も暗く、ひっくり返り易く、速いパッセージで演奏するのは難しい音です。バロック・フルートでは、この音のために、唯一キーが付けられていました。この音をダブル・ホールにすることで、簡単にD♯が得られるようになりました。
旋律的短音階が多く使われる北欧音楽ではE 、F♯、G、A、B、C♯、D♯の音階が必要な場合があり、大変便利です。
そんなわけで便利なクロマチック笛に進化したオスピパ。笛の先生ヨーラン・モンソン氏に見せたところ、これはもうスウェーデンの笛というよりもオリジナルのhataoパイプだね!と言われたので、これからは先生公認のもと「ハタピパ※」と呼ぶことにいたします。(※パイプはスウェーデン語ではピーパといいます)
みなさんも、笛の改造をしてみませんか?(まずはスーツケースの中で笛を潰すところからレッツ・トライ♪)