フィドルのプライベートレッスンを受ける:松井ゆみ子

ライター:松井ゆみ子

先月から念願だったフィドルの個人レッスンを受け始めました。セッション仲間から「上達するためには個人レッスンが必須」と強くアドヴァイスされたのも大きなきっかけで。

これまでにも何度か個人レッスンは受けてきているのですが、車を運転できないわたしは誰かに頼らざるを得なく、通いきれずにしばしば断念。今回はフィドル仲間とふたりでレッスンを受けるので、彼女がピックアップしてくれることになり、晴れて個人レッスン再開。どっぷりとハマっているドニゴール・フィドルを学びたい気持ちが大きく、去年と一昨年の2回参加したサマースクールのオーガナイザーのひとりに相談してみると、ほどなくレッスン開始の運びに!

レッスンしてくれるクィビーン(ゲール語でケヴィン)はイルンパイプス奏者でもあり、サマースクールには40年も関わってきているフィドラー。歴史家で、ドニゴール・フィドルの事典を書き上げています。わたしは偶然その本をロリー・ギャラハーフェスティバルの最中にバリーシャノンの書店で発見して即購入。のちにクィビーンの著書であることに気づき、レッスンの日にサインしてもらいました。


出典:“Between the Jigs and the Reels revisited – The Donegal Fiddle Tradition”
Caoimhin MacAoidh著、 Waltons版

彼のレッスンを受けることになったと、間をつないでくれたフィドル職人で、スクールのオーガナイザーのひとりに報告すると、とてもすてきなアドヴァイスをもらいました。「チューンを学ぶ上で大切なことは、音符ではなく、その背景にあるストーリーを知ること。クィビーンは適任者だよ」
わたしが学びたいと思うこと、そのものです。
 
近年セッションに行く機会も、ワークショップに参加する機会なども増えていますが、チューンのタイトルや、どの地域でよく演奏されているものかなどに頓着しないミュージシャンが案外多いことに気づきました。

どこかのセッションで覚えて演奏はできるけれど、チューンそのもののことはよくわからない。それはそれで、いいのだと思います。伝承ですから、出どころを辿れなくても無理ないですものね。

とはいえ。ドニゴール・フィドルに興味を持ち始めたのは、チューンひとつひとつの背景がメロディと一緒に伝えられている点がひとつ。作者不明でもあってもどんなことが語られているのかは伝承されてきているのです。

チューンはインストゥルメンタルですが「これは語りだよ」と言われて、あ!と腑に落ちたのです。

これはスライゴーのチューンですが「Strayaway Child」をご存じですか?トラベラーのシンガー、マーガレット・バリーと共演してきたマイケル・ゴーマンの作品です。6パーツの壮大なもので大好きなチューンのひとつ。1年以上かけて弾けるようになったばかりですが、弾くたびに風景が見えてくる不思議なチューン。Bothey Band の演奏が有名です。

スライゴーのフィドルスタイルはマイケル・コールマンの演奏が録音されてレコードになったことで確立しました。その陰で、世の中に知られることのなかった名演奏者たちもたくさんいるのです。ドニゴールのフィドラーたちはその代表格といっていいと思います。しかし彼らが全国区で知られなかったことが幸いし、地元の若い演奏者たちに大きな影響を与え、継承され、それが今も続いています。

マイケル・コールマンと演奏したことのあるフィドラーの多くはもう生存していませんが、たとえばドニゴールを代表する奏者ジョン・ドハティが亡くなったのは1980年。多くの著名ミュージシャンたちが彼の演奏を目の当たりにしているのです。

コン・キャシディやジェイムス・バーン、キャンベル兄弟はグレンコラムキルのフィドル・サマースクールがスタートしたときは存命で、彼らにフィドルを学んだ世代が今、わたしたちにチューンを伝承してくれています。

アキル島のサマースクールでパディ・ライアンが同じ宿に宿泊していたのにびっくりしましたけれど、わたしにはまだ彼からフィドルを学ぶだけの腕も知識もありませんでした。今、わたしよりもずっと若い世代のフィドラーたちを通して、かつての名演奏家たちの技術と情熱を学べるのは、しあわせな限りです。

アイルランドは小さな島国と思われていますが、フィドルをめぐる地図を思い描くだけでも、この国の地域性の幅広さ、奥深さにめまいがしそう。

日本のみなさんにお伝えできるほどの知識も経験もわたしにはまだありませんが、ゆっくり学びながら、大切なことをお伝えできる日がくることを願って。

補足資料です:
ドニゴール・フィドルの重鎮たち。向かって左は故トミー・ピープルズ。次が現役&生き証人ともいえるダニー・ミーハン、この日に栄誉賞を受賞。おとなりはご存知アルタンのマレード、右はわたしが大好きなフィドラー、ダーモット・マクロックリン。真ん中のチューンはクラナドの歌で知っていましたけれど、フィドル・チューンになると新鮮!フィドルだけのセッション、ドニゴールではとてもポピュラーです。

ドニゴール・フィドルに傾倒する理由、おわかりいただけるかな?