様々な分野で活躍している方をゲストにお招きし、ケルトにまつわるお話を伺う「私とケルト音楽」。
第九回は前回に引き続き、3歳からピアノを始め国立音楽大学を卒業、その後独学でケルト音楽を学びNHK朝の連続テレビ小説「マッサン」や作曲家の光田康典氏の作品に参加するなど大活躍のイーリアンパイプス奏者、野口明生(のぐちあきお)さんです。
後編では演奏のお仕事についてお聞きしました。どうぞお楽しみください。
前編はこちら。
https://celtnofue.com/blog/archives/4991
求められるのは作曲家の意図を汲み柔軟に対応する力
――野口さんの音楽のお仕事について教えてください。
野口:最近は大きなライブ以外には演奏していなくて、ほとんどスタジオでレコ―ディングをしています。
レッスンをすることはありますが、単発が多いですね。
イーリアンパイプスを買ったはいいけど、自分では演奏の仕方がわからないという方も結構いらっしゃいます。
ホイッスルでは吹きやすい音がパイプでは吹きにくく、別のフレーズにして歌い回しを変えないと演奏できないという事はよくありますね。
それも全部自分で考えないと弾けないのです。
音は出ても全部の音が使える楽器ではないし、ピッチが合うものではないので。
修行僧みたいな楽器なので、根気のある人じゃないと難しいですね。
メンテナンスで挫折する人も多くいらっしゃいます。
――どんな経緯で演奏のお仕事の依頼を受けるのですか?
野口:僕のホームページを見て作家さんから直接受ける場合もありますが、大概はインペグ屋さんという仲介の方経由が多いですね。
NHKドラマの「マッサン」に参加したのは国立音楽大学時代の繋がりからで、音楽を手掛けた富貴晴美さんが僕と同期だったんです。
彼女からマッサンの音楽を作るのにスコットランドとかケルト圏の音楽を使いたいと相談があったので、色々楽器の事についてアドバイスしたり実際に演奏にも参加しました。
――山梨が誇る作家の林真理子さんが原作の「西郷どん」にも参加されたのですね!
野口:そうですね、その作品も富貴晴美さんが音楽を担当して、ケルト圏の音楽を使いたいという事で参加することになったんです。
アニメでもそうなのですが、作品の舞台が日本でもケルトの楽器を使うことは結構あります。
――野口さんの方からメロディーを提案することもあるのですか?
野口:基本的には作曲家さんから届いた楽譜をそのまま演奏するのですが、どういう場面で使われる音楽なのか質問して吹き方の提案をしていきます。
「ここからここまでアドリブでやってくれ」という要望や急に「ハモリパートを付けてくれ」と言われることもあります。
だから、色々な引き出しを持っていないと対応できないですね。
もっと和っぽく吹いてくれとか、尺八風にとか、アイリッシュフルートだったら篠笛風にとか。トラヴェルソやリコーダーみたいにとか…。
他の楽器に寄せてほしいという要望もありますね。
その都度オーダーに対応していかなくてはいけないのでなかなか大変です。
作品に関連する文献を見たりすることもありますし、なるべく作品の中で作家さんがどういうものをイメージしているのか、こちらが汲んで生かすようにしています。
デモをもらった段階ではどういう意図があってこのフレーズを使うのか、どういう音色が求められるのかわからないことも多いのです。
コンサートでの笛の持ち換えはまるで弁慶
――演奏する上で大変なことはありますか?
野口:メロディーの中で半音階が続くと、やっぱり弾きにくいですね。
ただでさえ音痴な楽器なので、半音なんてもっと音痴になってしまうのです。
そういう理由で弾けなかったりすることはあります。
作家さんはピアノで作曲することが多いので、実際の楽器では弾けないという事はよくありますね。
鍵盤上では楽器の持ち換えも無いですから転調も自由です。
今はパソコンを使って色々な事ができるので、その曲に合うキーの管を持っていない時には、近いキーで演奏して後で直すということもあります。
あとは、ホイッスルはキーの持ち換えが大変です!
この前のクロノ・クロスのライブでもそうだったのですが、瞬時に持ち換えないといけないので「次に使うのはこのキーとこのキー」と横にずらりと並べておくんです。
照明で見えなくなることもあったり、色も一緒なので更にどの笛を使うのかわからなくなったり…笛の持ち換えの繰り返しでまるで弁慶のような姿になっています(笑)。
自分の夢がどんどん叶っていく、叶え続ける
――音楽のお仕事をやっていて良かったと感じるのはどんな時ですか?
野口:自分が参加した作品が世に出て、色々な人に感動してもらえることですね。
「笛の音色良かったです」とか声をかけていただくと、やっぱり嬉しいです。
後は色々な作家さんの作品に携われることや、久石譲さんとか自分の憧れだった方の作品に参加できた時にはやっていて良かったと心から思いました。
一番最初に久石譲さんに呼んでいただいた時には、緊張して前日は眠れませんでした(笑)
自分の夢がどんどん叶っていくのを実感します。
楽器を始めた時に漠然と「この人の作品に参加したいな」と思っていたのが現実になったり。
それは本当に嬉しいですね。
――野口さんの夢や今後の展望を教えてください。
野口:もっと色々な作品に参加して、沢山の方に演奏を聴いていただき、そして感動してもらいたいですね。
それで僕の楽器を知ってもらって、演奏してみたいという方が増えてくれればと思います。
アイルランド音楽に限らず色々なものを演奏して、僕がhataoさんから影響を受けたように、僕自身も誰かに影響を与えられるような人間になりたいですね。
――最後に読者の皆様にメッセージをお願いします!
野口:アイリッシュフルートやティンホイッスルは他の楽器には無い素晴らしい音を出すので、これから始めてみたいという方はぜひケルトの笛屋さんを利用してください。
僕の時代にはこういうお店は無かったので、ぜひこの恵まれている環境を活用していただけたらと思います。
(おわり)
イーリアンパイプス奏者の野口明生さんをゲストにお迎えした第九回「私とケルト音楽」、いかがでしたか?
気になる野口さんの出演情報や参加作品はホームページに載っていますので、ぜひチェックしてみてください。
【Profile】
- ゲスト:野口明生(のぐちあきお)
- 国立音大卒のピアニストであり、NHKドラマや光田康典氏の楽曲など様々な作品に参加するイーリアンパイプス奏者。
- http://uilleannpipesjapan.web.fc2.com/
- インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
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ケルトを愛するシンガーソングライター、やまなし大使。
2019.11.9セカンドアルバム”Songs for Braves蕾の目覚めを信じて“をリリース - https://twitter.com/ToMu_1234
はじめよう!アイリッシュ・セッション
「世界で一番初心者に親切な曲集」を目指して開発した、これからアイルランド音楽を演奏したいと考えている方にぴったりの楽譜集「はじめよう!アイリッシュ・セッション」の付属音源に野口明生さんも参加しています!