2020年6月27日に開催された日本のフルート/ホイッスル奏者のオンライン・ミーティングでは、参加者に事前に質問事項を送り、インタビューを行いました。
今回は”knit”や”西川智子&松岡莉子”などで活躍されている西川智子さんのインタビューをご紹介します!
フルートについて
――現在吹いているフルートについて教えてください(職人、材質、モデル、キーの数、購入年など)
西川:Michael Grinter / アフリカン・ブラックウッド / 8キー / 2017年に購入しました。
――その素材を選んだ理由は何でしょうか、また他の素材と比べたときの特色はなんだと感じますか?
西川:試奏して購入ができないため、一般的に信頼のある材質として購入しました。
――デザイン的な好みはありますか? (キーの取り付け方、キーの形、リングの形など)
西川:キーの丸みと、頭部管の謎の出っ張りが好きです笑
足部管のキーも見た目は好きですが、CやC#のキを使用時にカチャカチャと雑音が出てしまうのが惜しいところです。
――足部管の低音キーは使用しますか?またその理由や使用する状況について教えてください
西川:ときどき使用します。
フィドルチューンなんかはC#やCもでてきますし、音域の幅が広がったことが嬉しいです。
――第3オクターブを演奏しますか?またそれはどのような時ですか?
西川:アイリッシュを吹く上ではあまり必要ないですが、盛り上がるアレンジとして音程がコントロールしやすいEまではよく使用します。
――あなたにとってフルートの「良い音色」とはどのような音色ですか?
西川:一音だけの観点だと、楽器全体がフルに鳴り、倍音の豊かな張りのあるサウンドを良い音と感じます。
ただ、曲を吹く上では音色の豊富さも重要だと思うので、フレーズによってたくさんの音色を使い分けることが「曲全体」としての良い音だと思っています。
――D管以外のフルートは演奏しますか?またどのようなときに演奏しますか?
西川:C管をよく使用しています。
D管とは音色が全く違うので、曲調に合わせて選んでいます。
――あなたにとって理想のフルートとは、どんな楽器ですか?
西川:息を吹き込むほどに深みのある「美味しい音」が出せること。スケールが安定してること。息への反応がよく、音量も出せる楽器です。
それらを満たしたとき、鳴らしたい音のイメージを再現してくれる気がします。
――現在の楽器まで、どんな楽器を経てきましたか?
西川:購入順に、
- Zephir Bajus:12キー・フルート
- Seery:キーレス・フルート(樹脂製)
- Gilles Lehart:6キー・フルート
- Martin Doyle:キーレス・フルート(Traditional Model)
――現在のフルートについて、気に入っている点・不満な点を教えてください
西川:とにかく、音色・音量・反応の早さがとても好きです。
自分の持ち方とあわず押しにくいキーがあったり、低音域の音程が低いのが少し気になっていますが、それを鑑みてもとても素晴らしい楽器です。
――今気になっている楽器職人はいますか?
西川:いずれE♭管がほしいなと思っているのですが、Pol Jezequelがオススメと教えてもらって気になっています。
ホイッスルについて
――現在吹いているホイッスルについて教えてください
西川:3つの笛をメインに使っています。
- Michael Burke (アルミ、Session)
- John Sinds(真鍮)
- Feadog(改良もの。Kevin Ryanからの戴き物で、どなたが改良されたかは不明。真鍮)
――その素材を選んだ理由は何でしょうか、また他の素材と比べたときの特色は何だと感じますか?
西川:
- クリアで明瞭に音がひろがりやすく、どのようなシーンにも合う音色です。
- 素材的に、使い込むほどに変色していくところが好きです。
- 音量は出ないものの、コロコロとした音色がとても魅力的です。
――デザイン的な好みはありますか?
西川:
- 唇があたる部分がプラスチックで丸みがあり、唇が痛くならないのが嬉しいです。
- 素材的に、使い込むほどに変色していくところが好きです。
- プラスチック部分が割れて補修されていたり、本体も変色し、使いこまれたアンティーク感がお気に入りです。
――第3オクターブを演奏しますか?それはどのようなときですか?
西川:3オクターブ目のDは、盛り上げたいアレンジの際によく使います。
――あなたにとってホイッスルの「いい音色」とはどのような音色ですか?
西川:
- ソロ…ずっと聴いていたくなるような音そのものに魅力があり、曲の良さを引き出してくれる音色。
- セッション…他の楽器の音の塊に乗っかることのできる、コロコロとした心地いい音色。
- バンド…周りの音量に負けない音圧があるが、一辺倒に強すぎない柔らかさもあること。
- レコーディング…近くに設置されたマイクを通した音の響きの良さ。
――D管以外のホイッスルは演奏しますか?また、どのようなときに演奏しますか?
西川:
- B♭(Michael Burke)…高音の鋭さも低音の温かみも併せ持つ音域で気に入っています。最近はハープと吹くことが多いです。
- A(MK)…音域の相性がいいため、スコティッシュパイプと一緒に吹くときが多いです。
- LowF(Colin Goldie)…B♭と同様、LowDほど低すぎない絶妙な音質と技術的な扱いやすさが気に入っています。アンニュイな曲調がよく合います。
――あなたにとって理想のホイッスルとは、どんな楽器ですか?
西川:どのような編成・場面での演奏か、どのような曲調かによって理想が変わってくるため、演奏しているときに合うなと感じる「心地よさ」を重視しています。
――現在の楽器まで、どんな楽器を経てきましたか?
西川:Colin Goldie、SZBE、Susato、Tony Dixon、Clarkeなど、、いろいろ買っちゃいますよね笑
――現在のホイッスルについて、気に入っている点・不満な点を教えてください
西川:
- 他メーカーと比べて音色、音量のバランスの良さが際立ちます。抜群なスケールの安定感。
- セッションにおける溶け込み方の素晴らしさ。音圧は軽めで、アイルランドの空気感では必ずこの笛を吹きたくなります。
- 素朴ながらもずっと吹いていたくなる音色の良さ。
曲や場面により1〜3を使い分けているので、不満な点は特にありません。
――今気になっている楽器職人はいますか?
西川:Lir WhistleがJohn Sindsと似てるので気になってます。
――ロー・ホイッスルは演奏しますか?どのようなときに演奏しますか?
西川:演奏します。ロー・ホイッスルの音色に合う曲調の時です。
あとは、歌もののバックで吹くと絶妙な雰囲気を出してくれます。
――同じキーの複数のティン・ホイッスルを使い分けますか?使い分ける方は、その使い分けについてどのように考えていますか?
西川:基本的に曲調・楽器編成によって変えています。
セッションなどでは音圧弱めの真鍮製のものを、バンドサウンドには他の楽器に負けない音圧強めのものを、レコーディングでは音程が良くて近距離マイクに合うものなど、状況によって使い分けています。
――フルートとホイッスルで同じ曲を吹くとき、演奏技術面において変えていることはありますか?
西川:ありすぎます!鳴らす原理が違うゆえ、高音域のアプローチは全然違いますし、アーティキュレーションを変えたり、ホイッスルはあまりダイナミクスが大きくないので、その点もフレージング作りに大きい違いがあります。
音楽家として
――影響を受けた伝統音楽のフルート・ホイッスル奏者を挙げてください(5名まで)
西川:Matt Molloy、Kevin Ryan、Louise Mulcahy、Sean Ryan、Brian Finnegann(5名までだなんて無理です〜)
【Matt Molloy】
【Kevin Ryan】
【Louise Mulcahy】
【Sean Ryan】
【Brian Finnegan】
――管楽器奏者以外の影響を受けた音楽家を挙げてください
西川:Aidan Connolly、Brian McGrath、Fu Akamine、Martin Hayse、Tommy Peoples
【Aidan Connolly】
【Brian McGrath】
【Fu Akamine】
【Martin Hayse】
【Tommy Peoples】
https://www.youtube.com/watch?v=uAbNV3BaORI
――フルートやホイッスルを学ぶ人が聴くべきCDを教えてください
西川:トラディショナル寄りなアルバムと、モダンなアプローチのアルバム、どちらも聴くことがオススメです。
ホイッスルならMary Bargin、Sean Ryan、Brian Finnegan、Micho Russell、フルートならMatt Molloy、Kevin Crowford、Seamus Tanseyなど。
――自分が伝統音楽を始めたときの最初の困難は何でしたか?
西川:10年ほど前になるのですが、楽器の手に入りにくさと、情報の入りにくさです。
当時、hataoさんがWEB上に情報を載せてくださっていて、とても勉強になりました。
――楽器演奏による手や身体の不調や故障に悩まされたことはありますか? あるとすれば、どんな症状でどのように克服しましたか/あるいは受け入れましたか?
西川:フルートの影響かはわかりませんが、両手首が痛めやすいです。
痛みが強いときはサポーターをして吹いています。
――初期の頃の練習方法や日課はありましたか?
西川:CDなどから本場の演奏をたくさん聴くことです。
装飾音符は、曲でたまに練習するくらいでは筋肉がつかずうまくできなかったので、基礎練習をつくって繰り返し吹き、効率よく筋肉や指の流れを癖つけてました。
――現在の決まった練習方法や日課があれば教えてください。
西川:アイルランドのセッションCDと一緒に吹くことです。
気になる奏者のCDから曲を覚えたりもしてます。
――フルート/ホイッスル以外に取り組んでいる楽器はありますか?
西川:コンサーティーナ、ハープ(とってもマイペースに…)
――音楽家として最も大事にしていることや力を注いでいることは何ですか?
西川:どのような状況でも、とにかく音楽を楽しむことを心がけています♪
――今一番取り組んでいるプロジェクトや、これから手掛けたいことについて教えてください。
西川:ケルティックハープ奏者 松岡莉子さんとのデュオです。
最近は作曲にも力をいれています。
――どのような音楽家でありたい(または、~になりたい)と思いますか?
西川:軸となる音楽へのこだわりをしっかり持っていること。
そして、自分たちも楽しみ、聴いてくださる方も楽しんでいただける音楽をお届けすることです。
――初めて教室に来る生徒にどんな楽器(ホイッスル、フルート)を薦めますか?
西川:生徒さんが何をやりたいかということと、予算を伺ってアドバイスさせてもらっています。
ホイッスルならMichael Burkeを、フルートならMartin DoyleやGilles Lehartをオススメすることが多いです。
――初心者が練習において気をつけるべきことはなんですか?
西川:まずはその楽器・ジャンルを本格的に学んできた信頼できる先生をみつけ、受けたアドバイスは素直に実行してみること。これに限ります♪
――レッスンのカリキュラムやテキストがあれば教えてください。
西川:セッション本を使わせていただき、レッスン内ではいろんな奏者さんのCDを聴いてもらうよう心がけています。
グループレッスンでは自分で作ったアンサンブル譜を使うこともあります。
――レッスンで大切にしている価値観は何ですか?
西川:とにかく楽しく!そして、技術的にどのような練習が必要か的確に分析し、音楽的にどのようなアプローチをすればより良くなるか、生徒さんごとに必要なアプローチを計画して導くことを心がけています。
――伝統音楽の理想の教師像とは、どんな人物ですか?
西川:伝統音楽へのリスペクトを忘れず、本格的に学んでいる人であること。
――生徒に期待することは何ですか?
西川:能動的に音楽に向き合えることです。
ただ、人それぞれに音楽と関われる環境や時間は違うため、肩のちからを抜いて、好奇心のままに楽しんでいただければいいなと思います。
――伝統音楽は完全に独学でも習得ができると思いますか?
西川:ある程度は可能ですが、回り道になることの方が多いと感じます。
ただ、習っている先生だけをいい意味で信頼しすぎないことも大事かなと思います。
――今後、日本のケルト音楽・アイルランド音楽シーンに望むことがあれば教えてください
西川:ここ何年かで、ケルト音楽・アイルランド音楽がさらに日本国内でも広まってきていて、とても嬉しく思っていました。
私のように、クラシックフルート吹きがアイリッシュフルートへ興味をもち、本格的に演奏する人も多くなればいいなと思います。
また、コロナでセッションがなかなか再開しにくい状況ですが、このような時期だからこそ、オンラインセッションや、ライブ配信なんかも身近なものになりました。
それらを通して、住んでいる地域を越えた、ミュージシャン同士の交流がひろまればとても嬉しいです。